いい絵だから額装するのではない。額装してはじまる家族の物語がある
自分も昨日行って、同じポスターを買ったことを告げた。息子が生意気な口をきいたことも。院長は笑顔のまま事も無げに言った。「ボクだって作れる、でしょ?」。え、わかります? 「ほんとうに息子さんに作らせたらいかがですか。きっとすばらしい絵になります。額装して玄関にでも飾ってください」。たしかに魅力的な提案ではある。だが首を縦に振るのは躊躇われた。それはさすがに親バカだろう。息子の作という付加価値が発効するのは親限定。たとえ額装したところで来客の目に適うものにはならない、そう答えた。意外にも院長は譲らない。「いや絶対にイケますって」
そこまで言う根拠は何だ。「松尾さん、待合室の絵は見ました?」。もちろん。あんな立派なアートなら、わが家の玄関でも客間でも飾れるが。「あれ、うちの父が描いたんです」。なんと。院長の父親が画家だったとは。「とんでもない。ただの趣味です」。それにしては玄人はだしだが。「いえいえ、帰りによく観てください、ひどいもんです。でも父はあの絵を飾るよう、わたしに位置まで指定したんですよ。連絡もなくやって来て、ちゃんと飾っているか確認するんです。何度も何度も」