有力候補の開発は続々中止…認知症の新薬はなぜ登場しない
認知症の半数を占めるアルツハイマー型認知症(AD)治療薬の開発が苦戦している。製薬大手が開発中止を相次いで発表する中、第2相試験で好成績を上げた、バイオジェンとエーザイも3月に開発中止に追い込まれた。少数の患者では効果が大きめに表れたが、数千人規模で行う第3相試験では偶然の偏りが消え、効果が見えにくくなったからだ。AD治療薬開発は無理なのか? 東京大学大学院薬学系研究科機能病態学教室の富田泰輔教授に聞いた。
世界初の認知症機能改善薬「ドネぺジル」(商品名アリセプト)が登場して20年余り。日本ではその後、「ガランタミン」(同レミニール)、「リバスチグミン」(同イクセロン、リバスタッチ)が認知機能改善薬として、「メマンチン」(同メマリー)が神経細胞を保護する薬剤として認可されてきた。ところが期待通りの成果が得られているとは言い難い。フランスではいずれの薬も昨年8月から医療保険の運用対象外にされた。副作用の割に効果が高くなく、薬の有用性が不十分だと当局が判断したからだ。
「これらの薬剤がつくられた時代は、現在主流の『アミロイド・カスケード仮説』は存在していません。ADの最初期の病態は、脳内にアミロイドβ(Aβ)と呼ばれる特殊なタンパク質が神経外に蓄積すること。それを防止できれば、その後に起きる神経細胞内での異常なタウタンパク質の蓄積、神経細胞の脱落、認知機能の低下を防げると、多くの医師、研究者は考えませんでした」