精子からウイルス発見 新型コロナは新たな性感染症なのか

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セックスでうつるウイルスは意外に多い

 新型コロナウイルスはセックスを通じて感染するのではないか──。そんな見方が一部の医療関係者の間で浮上している。世界中で精子から新型コロナウイルスが検出された、との報告が相次いでいるからだ。新型コロナウイルスは当初、タチの悪い呼吸器疾患と思われてきたが、その後別のさまざまな病気を起こすことがわかってきた。最近では新たに血管内皮を攻撃して血管に炎症を起こすことで全身に血栓を生じさせる全身病との見方が広がっている。その一方で新たな性感染症ではないか、との疑いをもかけられているのだ。弘邦医院の林雅之院長に聞いた。

 例えば1~3月に中国で感染した男性38人の精子を調べたところ6人から新型コロナウイルスが検出されたという研究がある。医療ジャーナル「JAMA Network Open」で公開されたものだ。同様な研究結果が複数報告されており、新型コロナウイルスは精子を通じてセックスのパートナーにも感染するのではないか、という見方が浮上しているという。

「性感染症を起こす病原体には、細菌や真菌、原虫のほか、ウイルスがあります。新型コロナウイルスは体内の細胞に侵入するには細胞の表面にあるACE2と呼ばれる受容体への結合が必要です。そうすることで新型コロナウイルスは細胞内に侵入して、細胞が持っているタンパク質を作る仕組みを乗っ取ることで増殖し、そこをベースにさらに別の細胞に感染していくのです。ところが、このACE2受容体はのどや鼻や肺の奥以外に、口の中(とくに舌)、心臓、肝臓、腎臓のほかにも精巣にも存在すると言われています。卵巣にも少数ながら存在しています。精子の中に新型コロナウイルスが混ざっているということは、精巣や卵巣にも新型コロナが感染する可能性があるのではないか、とみられているのです」

 精子からウイルスが見つかる感染症は意外に多い。例えば、ブラジルのリオオリンピックの時期に世界的に流行した「ジカ熱」もセックスによってうつるウイルス性の感染症だ。軽度の発熱、発疹、結膜炎、筋肉痛、関節痛、倦怠感、頭痛などのほか、感染した妊婦からは小頭症の胎児が生まれることが報告されている。その原因となるのが、ジカウイルスだ。

「蚊を媒介した感染症で、基本的に感染したヒトから他のヒトに直接感染するような病気ではありません。しかし、輸血や性行為によって感染する場合もあるのです。厚労省は、性行為感染及び母体から胎児への感染のリスクを考慮し、ジカ熱の流行地域に滞在中は症状の有無にかかわらず、性行為の際にコンドームを使用するか性行為を控えることを推奨しています。感染している男性の精子から最長188日間ウイルスが発見されたことから、流行地域から帰国した男女は、症状の有無にかかわらず、少なくとも半年、パートナーが妊婦の場合は妊娠期間中、性行為の際に、コンドームを使用するか性行為を控えるよう警告しています」

「エボラ出血熱」は致死率が最大90%と言われるウイルス性の感染症だ。発症すると内臓が溶けて全身から血を噴き出して死んでいく。感染した動物の生肉に触れたり、感染した人の血液、唾液、便、尿、精子などの体液に直接触れた際、粘膜などから感染する。もちろんセックスでも感染する。アフリカのコンゴと南スーダンで同時に見つかりいまもアフリカで流行が続いている。

「そもそも精子はその役割から免疫組織からの攻撃を受けにくいため、ウイルスの絶好の隠れ家なのです」

 ほかにも、肝臓がんを引き起こす「B型、C型肝炎ウイルス」、若い女性に急増していて不妊の原因となる「ヒトパピローマウイルス」、エイズとして有名なカポジ肉腫を作るエイズウイルス、感染者数が多い性器ヘルペスなどがある。

 では、新型コロナは本当に性感染症なのだろうか?

「現時点では性感染症とは認定されていません。理由は2つあります。ひとつは、精子の中からウイルスがみつかったことがイコール感染能力をもっていることとは別だからです。精子から見つかったウイルスを培養したときに数が増えなければ生きたウイルスではない、つまり感染能力がないということになります。そのことがまだ明確ではないのです」

 もうひとつは間違いなく精子によって感染したとの事例が報告されていないことだ。新型コロナウイルス感染症の患者のセックスパートナーの5割弱が新型コロナウイルス感染症に感染したとの論文はあるものの、確定したものではない。仮にセックスで感染したとしてもそれは精子が感染経路でなく、キスや愛撫によってACE2受容体の多い口腔内や舌、肛門周辺から感染した可能性もある。その場合は単なる接触感染でしかない。

「とはいえ、用心に越したことはありません。他の性感染症対策にもなりますから、決まったパートナー以外とは性的関係は持たないこと、また、新型コロナウイルスの流行期には必ず性交渉時にはコンドームをつけた方がいいでしょう」

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