名郷直樹
著者のコラム一覧
名郷直樹「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

「一言主義」で失われる正しい情報…わかりやすい真実なんてない

公開日: 更新日:

「マスクは個人の判断で」という今、その判断に少しでもお役に立てれば、そんなつもりで書いている。しかし読者の中には一向にお役に立てていないというのが現実かもしれない。

 実際の研究結果が示すものは、マスクは「有効」、あるいは「無効」というようなはっきりしたものではない。バイアスや偶然の影響がある中で、マスクが有効という結論を導き出したメタ分析の結果ですら、相対危険0.47、95%信頼区間0.29~0.75と、100の感染を75くらいに減らすのがやっとという効果しかないかもしれないというものである。

 ただ、これにしてもバイアスによって効果が過大に評価された結果かもしれず、よりバイアスの少ないランダム化比較試験の結果に至っては、予防効果がないというのもある。

 こうした研究結果によって一般の人がマスクについて妥当な判断ができるかどうかといえば、そう簡単な話ではない。バイアスの影響はどこまでも残るし、あいまいさを排除できることもない。情報が示すものは「真実、バイアス、偶然」が混然一体となったもので、そこから「真実」が取り出せるというものではない。正しい情報が得られれば正しい判断ができるというのは、「正しい情報」を前提としているが、その前提はいつも怪しい。常にバイアス、偶然の影響を疑ってかからなくてはいけない。それはそれ相当のトレーニングを積んでも簡単なことではないし、徹底的に批判的に吟味をすればあらゆる情報は怪しいということになりかねない。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    岡本和真と村上宗隆のメジャー挑戦に“超逆風” 大谷バブルをブチ壊したMLB先輩野手の期待外れ

    岡本和真と村上宗隆のメジャー挑戦に“超逆風” 大谷バブルをブチ壊したMLB先輩野手の期待外れ

  2. 2
    ロッテ佐々木朗希「強硬姿勢」から一転…契約合意の全真相 球団があえて泥を被った本当の理由

    ロッテ佐々木朗希「強硬姿勢」から一転…契約合意の全真相 球団があえて泥を被った本当の理由

  3. 3
    佐々木朗希の今季終了後の「メジャー挑戦」に現実味…海を渡る条件、ロッテ側のスタンスは

    佐々木朗希の今季終了後の「メジャー挑戦」に現実味…海を渡る条件、ロッテ側のスタンスは

  4. 4
    ドトールに注がれる「石丸効果」都知事選でヒモ付き隠さず3番手から猛追、株価も爆上がり

    ドトールに注がれる「石丸効果」都知事選でヒモ付き隠さず3番手から猛追、株価も爆上がり

  5. 5
    「あぶない刑事」100万人突破で分かった…舘ひろし&柴田恭兵“昭和のスター”の凄みと刑事役の人材不足

    「あぶない刑事」100万人突破で分かった…舘ひろし&柴田恭兵“昭和のスター”の凄みと刑事役の人材不足

  1. 6
    ソフトB山川穂高「無神経ぶり」改めて露呈…31試合ぶり本塁打も身内から異論噴出

    ソフトB山川穂高「無神経ぶり」改めて露呈…31試合ぶり本塁打も身内から異論噴出

  2. 7
    石丸伸二候補に大逆風…「恫喝」訴訟で2連敗、都知事選後の国政進出シナリオも狂いが

    石丸伸二候補に大逆風…「恫喝」訴訟で2連敗、都知事選後の国政進出シナリオも狂いが

  3. 8
    蓮舫候補に一発逆転の「神風」は吹くのか…7.7都知事選「一歩リード」の小池知事を猛追

    蓮舫候補に一発逆転の「神風」は吹くのか…7.7都知事選「一歩リード」の小池知事を猛追

  4. 9
    都知事選最終盤に飛び交う「蓮舫狙い撃ち」の怪情報…永田町に出回る“石丸2位”データの真の狙い

    都知事選最終盤に飛び交う「蓮舫狙い撃ち」の怪情報…永田町に出回る“石丸2位”データの真の狙い

  5. 10
    猛チャージ石丸伸二候補に広がる危機感…広島からは「あんなぁ都知事に押し上げちゃいけん」

    猛チャージ石丸伸二候補に広がる危機感…広島からは「あんなぁ都知事に押し上げちゃいけん」