若年性アルツハイマー病を発症しても、対策を講じることで定年退職まで仕事を継続できる
本人、家族、勤務先側、産業医、主治医で相談
令和3年度厚生労働省老人保健健康増進等事業において、私が座長を務めた「若年性認知症疾者の就労支援のための調査研究事業」検討委員会で、「若年性認知症における治療と仕事の両立に関する手引き」を作成しました。ここで、アルツハイマー病を患いながら仕事を両立した事例として50代男性の話を紹介しています。
大手家電メーカーに、各種家電の組立工として勤務していた男性で、同僚の名前や基本的な現場のルールを忘れたり、提出する書類を間違えたりといったトラブルが生じ始めたのが数年前。次第に物忘れの頻度や程度が増していったことから、上司や同僚の勧めもあって、産業医に相談。病院で精密検査を受けたものの、脳の萎縮が認められず、その時点ではアルツハイマー病との診断はされませんでした。
しかし物忘れによるトラブルは続き、最初の病院を入れると3軒目に受診した病院で、アルツハイマー病、認知症レベルはレベル1(軽度認知症)と診断。抗認知症薬の治療が始まりました。
一方で、男性、妻、産業医、上司、人事担当者、主治医で、男性のこれまでの経験が生かせる形で仕事の継続ができるよう、今後の対応を相談。通勤や業務遂行に影響を及ぼし得る症状や薬の副作用、業務の内容で職場で配慮した方がいいこと、今後の治療予定などの情報のやりとりをし、勤務先側が両立支援プランを作成しました。従来の人間関係の範囲でできる仕事の検討、定期的な面談による必要なプランの見直し、仕事の継続が困難となった場合の対応についても、話し合いをしていくこととなったのです。
若年性アルツハイマー病が疑われる際、前回のこの欄でも触れましたが、他の病気と判断が難しいケースも多々あります。特に、うつ病との区別がつきにくいともいわれています。
若年性アルツハイマー病とうつ病の違いとしては、まず物忘れに対する認識や深刻さが挙げられます。
認知症では「記憶障害を否認する傾向がある」「思い出せなくてわからないことも、つじつまを合わせようと取り繕う」、うつ病では「自ら認知症になったのではと心配し、物忘れを強く訴える」「質問には“わからない”と答える」なども挙げられます。
認知症では、最初のうちは身体的な症状はあまり見られません。しかしうつ病では、不眠、めまい、頭痛、食欲低下などの身体的症状が見られます。