(2)障害者の早期離職を防ぐ「医療心理士」の存在
「それで落ち込むこともありました。私の場合は、仕事の内容よりも、人間関係やコミュニケーションがうまくできないことが悩みでした」
そんなNさんですが、現在の会社に8年間在職し、4年前にはパートから正社員に昇格、自立した生活ができるようになったそうです。障害者雇用の大きな課題、早期離職を乗り越えられた理由は何だったのでしょうか。
「それは信頼できる医療心理士の存在です。8年前、今の会社に入った時、人間関係のトラブルで2週間で辞めようとしたんです。その時、長年かかっている先生のカウンセリングを受け、解決策を具体的に教えられました。また、仕事を完璧にこなすことにこだわって身動きできなくなった時には、完璧にできなくてもいいとわからせてくれた。問題を一つ一つ解決できるよう背中を押してもらい、勤務時間が少しずつ伸び、フルタイムで働けるようになったのです。先生のカウンセリングがなければ2週間で辞めていました」
Nさんの背中を押した医療心理士の小野幸子・さち臨床心理研究所長はこう話します。
「精神障害者の職場定着支援策の一環として産業カウンセラーが配備されていますが、重要なのは互いを信頼し、打ち解けた関係が築かれているかどうかです。それは一朝一夕につくられるものではありません。当事者が何に困り、何を一番望んでいるかをよく理解していないと相手を納得させ、その気にさせることは難しい。職場定着率を上げるには、職場内の産業カウンセラーだけではなく、当事者を理解し信頼できる外部のカウンセラーにアクセスできる柔軟性が必要ではないでしょうか」=つづく
(医療ジャーナリスト・油井香代子)