「京屋の女房」梶よう子著
「京屋の女房」梶よう子著
時は寛政12(1800)年。江戸は京橋一丁目の煙草入れ屋「京屋」は店を開けた途端、次から次へと客が舞い込み、朝から大わらわだ。
ここは、江戸一番の戯作者と誉れ高い山東京伝の店。京伝に身請けされ嫁いできた後妻のゆりは、慣れない町場の生活に奮闘していた。
そんなある日、夫の朋友でくせ者の曲亭馬琴の言葉で、夫が菊の花が描かれた煙管を使っていることに気が付く。それは亡くなった先妻・お菊の形見ではないのか――。
京伝とお菊との出会い。吉原でのあだ討ち騒動の手伝いや、さまざまな文人との付き合い。京伝からありのままを聞かされたものの、ゆりは京伝に楽しい記憶を残したまま逝ったお菊に嫉妬する。そんな折、かつてあだ討ち騒動を起こした侍・喜次郎が京伝を訪ねてきた。
大河ドラマ「べらぼう」の主役・蔦重が見いだした山東京伝とふたりの妻を描く人情時代小説。お菊とゆりのエピソードを通して絵師たちが活躍した華やかな世界、そして夫婦の絆が丁寧に描かれる。京伝の優しさが隠された喜次郎来訪の理由にホロリとさせられる。
(潮出版 1870円)