“難易度が一見低い”国公立大医学部のハードルが急上昇…コロナ禍で一般家庭の受験者が増加
「結局、一番大事になってくるのはコストパフォーマンス」と話すのは予備校医学部コースのスタッフ。国公立大を第1志望にして、複数の私大をすべり止めにするのが医学部受験の最も多いパターンだ。
「国公立で難易度が低いのは秋田、琉球、福島、山形、旭川、佐賀……。地元の受験者はともかく、アクセスや在住コストから敬遠されてきた」(同)
数字だけを見ると、こうした国公立よりも偏差値が上回る私立も少なくない。だが、「実際には大半の私立に比べ、たとえ人気がなさそうに見える国公立でもハードルは高い」と予備校スタッフ。
「コロナ禍で安定志向が強まり、それまで医師を視野に入れていなかった受験者が医学部を目指すようになった。そうした層は一般家庭が多く、高額な学費は払えない。表向きの数字に反映される間もないほどのスピードで、国公立が難しくなっているんです」
■私大医学部は凋落傾向
その一方で、慶応など一部の名門を除き、私大医学部の多くは凋落傾向にある。私大の一番のお得意さんともいうべき開業医の家庭の財布のヒモが固くなっているからだ。都内で診療所を営む医師は「息子が幼い頃はなんとしても医師にしたいと考えていた」と振り返る。祖父から3代続く開業医一家で、「カネに不自由したことはない」という典型的な富裕層だった。
「診療所を継承できるのは大きい。施設や医療機器を引き継いでも、老朽化が著しいのでさほどではありませんが、患者さんが引き続き来るのが小さくないメリット。また、それまでの信用があるので、資金調達も容易。開業医が儲かるのは事実だし、息子も楽かなと思ったんですが」
私大医学部全31校の6年間の学費は平均で約3250万円。最も安いのは国際医療福祉大の1850万円、慶応大も2206万円と私大の中では5番目に安い。「6年前に医学部を開設したばかりの国際医療福祉大は別にして、学費が安いほど偏差値が高くなる」(予備校スタッフ)という。
前出の開業医の息子は医学部進学実績のある中高一貫校に入学したが、成績はなかなか上がらなかった。国公立はもとより、私立の中堅クラスの合格ラインもなかなか見えてこなかった。やっと手が届くのが首都圏では下位の独協医大、北里大、埼玉医大といったところ。6年間の学費は3700万~4000万円。
「予備校費や家庭教師代などを合わせ6000万円くらいまでは出すつもりでしたが、本人からまるでやる気が感じられない。果たしてこのまま医師になるのを後押ししていいのかどうか疑問を感じだした」と打ち明ける開業医はこう続ける。
「医師優遇税制もだいぶ縮小され、息子の代ではだいぶ厳しくなるのは必至。元が取れる時代ではなくなってきた」
息子の進路についてはまだ迷っている最中だという開業医は「医師が稼げる時代は終わった」と寂しく笑った。
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