かつて“金権医大”と呼ばれた順天堂大の大躍進 私大中堅下位から御三家トップの慶応に肉薄
「このところ、私立医学部の劣化が著しい。うちだって誇れる雰囲気ではなくなってきた」と自嘲気味に語るのは私大ナンバーワンの慶応大の内科系教授。「私大系のどこも診療も研究も停滞気味。胸を張れるものが何ひとつない」と嘆くが、唯一の例外として挙げるのは順天堂大だ。
「あそこだけは格を上げている。これまでライバルと意識したことはなかったが、だいぶ追い上げられている感がする」
私大御三家といえば慶応、東京慈恵会医科、日本医科を指したが、「もはやそうした言い方自体、そぐわなくなっている」と医学部予備校の幹部は話す。慶応が断トツなのは変わらないものの、順天堂が上位に割り込んできたのだ。「かつては私大中堅の下位だったが、近年の躍進は目覚ましい」という。
1978年11月23日、「読売新聞」の1面に「“金権医大”変わらず」の文字が躍った。日本私立医科大学協会のマル秘資料を入手。学債や寄付金名目で入学者から多額のカネを吸い上げている私大医学部の実態をスクープした。
順天堂もヤリ玉に挙がった一校。入学者1人当たりの寄付金平均額は1007万円。1000万円を超えていたのは川崎医科大(1013万円)と2校だけだった。こうした寄付金集めに熱心なのは「大半が格下の医学部。偏差値も低い」(予備校幹部)といわれる。その順天堂がどの時点で私大上位に飛躍したのか。一番大きかったのは2008年度から学費を大幅に下げたことだ。
「6年間の学費をいっぺんに900万円近くも下げ、当時私大で最も安くなった。偏差値も一気に上がったのです」(同)
■たゆまぬ改革で大躍進
決断したのは04年から理事長を務める小川秀興氏。「学費の値下げだけでなく、順天堂のブランド力の向上にさまざまな工夫をしてきた」と証言するのは同大の元教授だ。脳神経外科医が幕末にタイムスリップするコミックをドラマ化して人気を呼んだ「JIN-仁-」(TBS系)の撮影では順天堂が全面協力。現代の場面は順天堂医院でロケが行われた。
「心臓外科医の天野篤先生は小川先生が学長時代に招聘した。その後、明仁上皇の手術を手がけ、順天堂のイメージアップにつながった」と元教授は小川氏の先見の明に感心する。その経営手腕は高く評価されながらも、20年近くに及ぶワンマン体制には批判も少なくない。5年前には入試で女性や浪人生に不利になるように得点操作していた事実が発覚。裁判所は激しく糾弾し、順天堂側に賠償を命じた。
「一連の不正が大きなダメージになることはなかった。私大の大半が偏差値を下げる中、順天堂は右肩上がり。慶応にも肉薄している」(予備校幹部)
医学部を目指す受験生からすれば、実積が大切。今年の医師国家試験では合格率100%を達成。著名な教授も多く、学費も安いとなれば、ますます人気は上がっていきそうだ。
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