昭和レトロどころか大正ロマン…静岡で100年続く名店「多加能」で桜エビの天ぷらを
第29回 静岡(静岡市葵区)
アタシは仕事で地方都市へ行くことが多い。
それだけに観光は無理でも、せめて飲み屋でそこにしかない土地のものを食べたいと思っている。できれば絶滅しそうな店の雰囲気、街の空気もひっくるめて味わいたい。ちょっとキザですけどね。
地方都市には、昭和な街がそのまま残っているケースが多い。新幹線が止まるような駅の近くは新しいビルが林立しているが、少し歩くと風景は一変する。今回行った静岡も同様で、駅周辺には地元の人から観光客まで老若男女が賑わい、新旧バランスよく整備された場所がある。地元で「おまち」と呼ばれるいくつかの街のことで、紺屋町もそのひとつ。そこで100年続く名店が、今回訪ねる「多可能」だ。
昨年が創業100年ということは昭和レトロどころか、大正ロマンである。JR静岡駅から竹千代像を横目に、両替町通りを10分ほど行ったところ。店の前で熟年カップルが「ダメだ、いっぱい」。あ~、やっぱり入れないかと思いつつ年季の入った引き戸を開けると、すかさずカウンターの中から「すぐに片付けますのでこちらへ」という愛想のいい声。タイミングよく一人客が立ち上がり、そこに滑り込んだ。