元プロ野球投手の一場靖弘さん 裏金問題ドン底を経ての今

公開日: 更新日:

一場靖弘さん(元楽天・ヤクルト投手/38歳)

 大学野球では戦後の最多奪三振を記録したり、完全試合を達成したりするなど、“10年に1人の逸材”ともてはやされた。だがドラフト会議前に裏金問題が発覚。本命の巨人入団は白紙となり、楽天へ。そして移籍したヤクルトでも才能は開花せず、12年のシーズンでピリオドを打った。それから9年、一場さんを千葉県松戸市に訪ねた。

  ◇  ◇  ◇

 JR常磐線・馬橋駅から車で約5分、畑や建築資材置き場、介護施設などが点在する一角。待ち合わせたのは、野球練習場・ベースボール9に併設された「一場靖弘ベースボールアカデミー」だった。

 昨年5月から、ここで小学生から高校生までを対象にした野球教室を主宰している。

「松戸市少年軟式野球連盟に加盟している『レッドストロングス松戸』のコーチをしていまして、チームオーナーから野球教室も! と打診され引き受けました。また、先月から印西市にあるバッティングセンター『B.B.パートナー千葉ニュータウン店』でも、投手専門の野球教室をスタートしています」

 アカデミーは会員が10人。印西教室は中学生が1人だ。

「アカデミー開校が新型コロナの緊急事態宣言とほぼ同時期。それで大々的な告知ができず、口コミと少年野球関係者の紹介で来てる子が多いですね。印西教室の中学生は野球センスが良く、基本を反復していけばかなり伸びそうです」

 1年経って慣れてきたものの、子供の指導には当初、戸惑いもあった。

「少しキツく言うと、ソッポを向いたりふてくされたり。これまであまり怒られることがなかったからでしょう。だからなるべく、その子の良い点や持ち味を引き出すように心がけています」

 2年前、「ユーチューバーとして活動開始」と週刊誌に書かれていたが?

「『一場靖弘のBASEBALLチャンネル』ですね。あれはアカデミー立ち上げを念頭に始めたので、ユーチューブで飯を食おうって話じゃないんです」

 料金や練習時間は、もっぱらSNSで告知。ツイッターなら「一場靖弘【公式】」「BBP千葉ニュータウン店」、フェイスブックだと「Baseball place9」で検索すると各種情報を得られる。

 一方、平日の日中は別の仕事もしている。

「午前9時から午後3時くらいまで、知人が経営する会社で身体障害者の就労支援事業を手伝っています。僕は暇を持て余すのが嫌いなので、二足のワラジってワケです」

引退後は看板制作、通信機器販売など職を転々

 さて、一場さんといえば、明治大学野球部で剛腕投手として大活躍。大学野球史に大きな足跡を残し、04年ドラフト会議の注目株だった。

 しかし会議を前に複数の球団から「栄養代」「タクシー代」名目で小遣いを受け取っていたことが発覚。球界を巻き込む大騒動になった。

「僕から要求したことはないですし、気がついたらポケットに封筒が入ってたこともありました。日本学生野球憲章に詳しくなかったこと、高校時代からずっと実家を離れて寮生活だったので、親に負担をかけたくないと思っていて……」

 ドラフトでは、即戦力を求めていた設立間もない楽天から自由獲得枠で指名され入団。06年に7勝、07年に6勝したが、大学時代の球威には及ばなかった。

「2年目から肩を壊していて、その痛みで思うように投げられなかったのが原因です。棚の上の荷物は降ろせない、車のハンドルも回せないほどの激痛でした」

 09年にはトレードでヤクルトに移籍。しかし、肩をかばうあまり股関節も痛めてしまい、12年で引退した。

 その後は、看板制作会社、通信機器販売会社、外資系保険会社と転職。

 また投資用にローンで購入した仙台市内のマンションが東日本大震災で被災。借金だけが残り自己破産したことも話題となった。

「波瀾万丈、と言われたらそうかもしれません。でも今は再婚した嫁、5歳、4歳、1歳の3人の子供たちと楽しく暮らし、引退して9年も経つのに、こうやって大好きな野球を続けている。応援してくれてる方々に感謝しかないですね」

 15年に学生野球資格回復制度による適正認定を受け、今後、高校野球指導者の道もある。

「今はアカデミー、少年野球でしっかりとした選手を育て上げ、大きな目標としては監督、コーチで甲子園を目指したい」

 野球人生の第3章は始まったばかりだ。

(取材・文=高鍬真之) 

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人原前監督が“愛弟子”阿部監督1年目Vに4日間も「ノーコメント」だった摩訶不思議

  2. 2

    巨人・阿部監督1年目V目前で唇かむ原前監督…自身は事実上クビで「おいしいとこ取り」された憤まん

  3. 3

    松本人志は勝訴でも「テレビ復帰は困難」と関係者が語るワケ…“シビアな金銭感覚”がアダに

  4. 4

    肺がん「ステージ4」歌手・山川豊さんが胸中吐露…「5年歌えれば、いや3年でもいい」

  5. 5

    貧打広島が今オフ異例のFA参戦へ…狙うは地元出身の安打製造機 歴史的失速でチーム内外から「補強して」

  1. 6

    紀子さま誕生日文書ににじむ長女・眞子さんとの距離…コロナ明けでも里帰りせず心配事は山積み

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    メジャー挑戦、残留、国内移籍…広島・森下、大瀬良、九里の去就問題は三者三様

  4. 9

    かつての大谷が思い描いた「投打の理想」 避けられないと悟った「永遠の課題」とは

  5. 10

    大谷が初めて明かしたメジャーへの思い「自分に年俸30億円、総額200億円の価値?ないでしょうね…」