伝説の10.19ダブルヘッダー 近鉄V阻止「最後の5秒」の記憶
近鉄が連勝すれば優勝が決まる「10.19」のダブルヘッダー。普段の川崎球場は観客が少なく、満員になるのはゴールデンウイークくらい。そのわずかなスタンドのお客さんも、野球ではなく、隣の競輪場をのぞき見する人がいた、といわれたほどだったが、この日だけは違った。
15時開始の第1試合を前に、お客さんが球場に大挙。快晴の下、スタンドは試合前から熱気に包まれていた。しかも、試合中に阪急がオリエント・リース(現オリックス)という、あまり耳慣れない会社に身売りされるというニュースが飛び込んできたこともあって、何か異様なムードが漂っていた。
この日のダブルヘッダーは第1試合では延長なし、第2試合は試合開始から4時間が経過したら、九回以降はそのイニングで打ち切りと決められていた。
試合前、有藤監督はミーティングで「今日の試合に近鉄と西武の優勝がかかっている。どっちのチームにも失礼のないよう、全力でやってくれ」と熱くナインに語りかけた。ロッテとすれば消化試合だったが、この日ばかりは胴上げをさせてたまるかと、チーム全体が一つにまとまっていた。プロの意地のようなものがあった。