日本ハム新庄監督をマネジメントのプロはどう見る?「優勝目指しません」発言を評価する理由
日本ハム・新庄剛志監督
マネジメントのプロは、プロ野球の監督の仕事ぶりをどう見ているのか?
著書「リーダーの仮面」が32万部、「数値化の鬼」が15万部(ともにダイヤモンド社)とベストセラーを記録する株式会社識学の代表取締役社長・安藤広大氏(42)は早大ラグビー部出身で、プロバスケットのBリーグ・福島ファイヤーボンズのオーナーも務める。
「識学」とは、組織内の誤解や錯覚がどのように発生し、どうすれば解決できるか、その方法を明らかにする学問だ。この「識学」の観点から、プロ野球界で特に注目度が高い日本ハムの新庄剛志監督(50)、巨人の原辰徳監督(63)、阪神の矢野燿大監督(53)の3監督のチーム運営について話を聞いた。第1回は新庄剛志監督。
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──就任1年目の新庄監督のここまでの手腕について、どう見ていますか? 今季は13日現在、リーグ最下位に低迷していますが……。
■責任の所在が明確
「あくまで外からの印象ですが、私は肯定的に見ています。例えば、識学の概念に『位置』(立場)というものがあります。自分は誰から評価されて、誰を評価する立場なのかというところを明確にすると同時に、自らの責任も明確にする。さらに権限を明確にすることで言うと、監督はチームのトップですが、球団の中では中間管理職です」
──監督の上にはオーナーや球団社長がいます。巨人の原監督のように編成権を持った「全権監督」もいますが、大半の球団の監督は違います。
「監督がチーム強化において全ての権限を持てなかったり、上層部の存在がときに邪魔になったり、自分自身の言い訳になってしまったりすることがあると思います。自分でやりたいようにできないわけですからね」
──日本ハムの場合は、球団本部長、GMがいわゆる上司です。
「新庄監督が就任会見で『優勝なんか一切目指しません』と発言したのは、球団の中での自分の権限を確定させる作業だったのかな、と。新庄監督は自らの責任、つまり新庄監督を評価するオーナーやフロントの評価項目について、<今年の優勝>ではなく<2~3年後に向けた体制づくり>に切り替えた時点で、今年の“勝ち”がほぼ確定したと思いますね」
2~3年後に向けた体制づくりはプラス
──まず、「優勝を目指さない」と言い切ったことで、今季はチームの順位よりも育成を優先することができるというわけですね。
「もちろんプロなので、この1年間で若手の成長などが見えなかったら、評価は下がっていくとは思いますし、集客ができなくなってくると、権限を与え続けるのが正しいのかと、フロントが疑問に思う可能性はあるとは思います。しかし、2~3年後に向けた体制づくりにチャレンジできることは、チームにとってもかなりプラスではないかと思いますね。プロ野球の監督は1年、2年という短期間で結果を見られてしまうことが多々あると思いますが、日本ハムの選手が成長をし、(ファンやメディアから)多くの注目を集めているうちは、2~3年間という一定期間、権限が与えられるという意味で、非常にうまいやり方だなと思います」
──新庄監督はキャンプからスタメンを取っ換え引っ換えするなど、今もまだ完全には固定していません。こうした選手起用についてはどう見ていますか。
「『対選手』でいうと、新庄監督は選手に対しても、いい意味で思うがままにやっていますよね。自らのパフォーマンスの際は感情をあらわにしますけど、チームに対してはかなりクールに、シビアにやっているように見えます。以前に前巨人監督の高橋由伸さんと対談させていただいたのですが、高橋さんは選手側の視点に立ちすぎたことで、監督として選手に対して厳しくできなかったことなどを後悔されているようでした。阪神の矢野燿大監督は、選手との距離感が近いタイプの監督なのかもしれません」
──「今年一年はトライアウト」と位置づけ、選手の能力や適性の見極めを重視すると。
「チームに絶対的な『新庄のルール』がある。その代わり、チームの成績には責任を負うという『位置』(立場)の関係が出来上がっているのではないでしょうか。『対フロント』『対選手』において、監督である自身の立ち位置をしっかりと確定させているという意味では、うまくいっていると思います」
選手に対してはかなりクールでシビア
──そんな中、野村、清宮、万波ら若手が成長を遂げつつあり、松本剛という中堅選手も才能を開花させています。
「新庄監督の発言と行動が『言行一致』になっています。2~3年で優勝するという目標に向けた途中経過における結果が出始めているわけですから、新庄監督を評価するフロント側が信じることができる。思うがままにやったものの、途中経過における結果が出てなければ別ですが、ここまでは言っていた通りになっていますからね」
──開幕直後はソフトバンクに3連敗するなど、勝てない時期がありました。
「高橋さんとの対談でも感じたことですが、勝てるチームになるまでには、一定の期間が必要だということを、フロントに納得させることは本当に大変なようです」
──監督は目の前の試合を勝たないとクビを切られる可能性がありますからね。
「基本的に監督は、今年一年を捨てる、ということができないわけですからね」
──フロントもファンも、今年は近い将来の優勝のために我慢しようというムードができつつあるように見えます。
「あとは(指導者の)スキルの部分だと思いますね。コーチの力をうまく借りながら、しっかりとやっていけば中長期的に強いチームが出来上がってくるのではないか、と思っています」
【著書紹介】リーダーシップ論をまとめた「リーダーの仮面」に続き、今年3月に発売された「数値化の鬼 『仕事ができる人』に共通する、たった1つの思考法」(1650円=税込み)は、全てのビジネスパーソンに向けた本だ。ビジネスパーソンが「数字」と聞くと、目標やノルマなどネガティブなイメージを持ちがちだが、本書では、「数字」は自分自身を客観視できる“唯一の指標”であり、何が足りていないか、どういう課題があるのかを“見える化”するツールであるとしている。物事を数字で考える習慣を身に付けることで、「仕事ができる人(=評価される人)」になれるという。