U-23日本代表のパリ五輪最終予選に「3つの不安材料」…六川亨氏がシビアに検証
現予選メンバーの国際経験不足
しかし、昨夏に中国で開催予定だったアジア杯(A代表が参加)が、新型コロナウイルスの影響で取りやめとなり、22年にW杯を開催したカタールが代替開催に名乗りを上げた。ただし、猛暑を避けるために24年の1月から2月の開催に変更された。このあおりを受けたのがU-23アジア杯だ。
開催時期が4月に延期されたため、欧州各国リーグが佳境を迎える時期と重なり、「ヨーロッパでプレーしている日本人選手は(予選に)呼びにくい」(山本NTD)状況になった。
さらに現五輪代表世代の国際舞台での経験不足も、山本NTDにとっては不安材料である。
日本はW杯は98年大会から、五輪は96年大会から連続して出場権を獲得し、アンダー世代のU-20代表も17年と19年のW杯でベスト16に進出など結果を残してきた。
ところが現五輪代表世代の選手たちが、国際経験を培う格好の場所となる21年のU-20W杯インドネシア大会は、新型コロナウイルスの影響で中止となった。主軸のMF松木らが出場した23年のU-20W杯アルゼンチン大会は、1勝2敗で1次リーグ敗退となり、決勝トーナメント以降の苛烈な戦いを通して、国際的な経験値をアップさせるチャンスを逃してしまった。
山本NTDの「(選手たちには)世界大会の経験不足がある」という指摘については「ごもっとも」と言うしかない。
前出の荒木、松木に加えてA代表経験もあるFW細谷真大(柏)、売り出し中のFW藤尾翔太(町田)、唯一の大学生(筑波大)FW内野航太郎と多種多彩なアタッカーがそろっている攻撃陣と比べるとDF、GK陣のコマ不足も不安材料である。
「谷間の世代」というのは言い過ぎかも知れないが、Jリーグでもレギュラーとして試合に出場している選手が少ないというのは、厳然たる事実である。もちろんパリ五輪の出場権を獲得した場合だが、OA(オーバーエージ)枠にアーセナルのDF冨安健洋、ボルシアMGのDF板倉滉らの名前が、早い段階で取り沙汰されていることも、DF陣が手薄ということの証左と言える。
中東各国の急激な底上げも見逃せない。
日本代表は中国、UAEを撃破してライバルの韓国と1次リーグB組首位を争う展開になるだろうが、ここからシビアな戦いが待ち構えている。 B組を1位で突破した場合、準々決勝でA組2位通過予想のカタールと対戦することになり、勝ち上がっても準決勝でC組上位予想のサウジアラビアとイラク、D組上位予想のクウェートとウズベキスタンとの対戦が控えている。これまで中東サッカーは、サウジアラビアだけが突出した存在だったが、他の中東勢も国を挙げた強化に取り組み、アジアトップの日本に対し、徹底した研究で丸裸にしていることが予想される。A代表が準々決勝で敗退した1月から2月のアジア杯でイラン、イラクに敗れたことが好例だ。
五輪代表が8大会連続出場を逃したとしても、決して不思議ではない状況に大岩ジャパンは置かれている──。
▽六川亨(ろくかわ・とおる)1957年生まれ。東京都板橋区出身。法大卒。月刊サッカーダイジェスト記者を振り出しに隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任。2001年以降はCALCIO2002の編集長を務めながら多くのサッカー専門誌の創刊を手掛けた。W杯、EURO、五輪など精力的に取材。携帯サイト「超ワールドサッカー」でコラムを長年執筆中。著書に「Jリーグ・スーパーゴールズ」「サッカー戦術ルネッサンス」などがある。