「タテの二股」で地方を切り捨てた小泉政権

公開日: 更新日:

「日本の政治を変える」宮本太郎、山口二郎著

 ともに50代半ばのリベラル派政治学者の対論。今日の日本政治の源流は1980年代の中曽根内閣による政治改革論議にあった。それまでの田中角栄式利益誘導手法に対して、「土光臨調」を柱とする新自由主義的な改革の進展は「戦後保守政治の終焉の始まり」と位置づけられる。自民党がそれまでの伝統的な支持基盤の殻を破り、都市中間層へと支持基盤を意識的に広げ始めたのもこの時期のことだ。その後、日本の人口構成が、3大都市圏が地方の農村社会をしのぐほうへと傾斜し続けたことによって、この戦略は的中することになった。

 他方、小泉改革は自民党の屋台骨だった雇用構造にメスを入れて解体した。欧米の新自由主義が社会保障の削減をねらったのに対して、小泉改革は日本企業の長期雇用慣行を崩し、流動性という名の生活不安を招き入れ格差拡大に拍車をかけた。

 中曽根政権が「ヨコの二股」すなわち都市と農村の両方にまたがって「改革」を唱えたのに対し、小泉政権は「タテの二股」つまり社会の上層と下層に二股かけつつ地方を切り捨てたのだ。厳しいご意見番として知られる山口氏が小泉氏について「個人的には非常に好感のもてる人」と評し、「安倍さんとは違って、イデオロギー的な根のない靖国参拝」としているのも興味深い。

(岩波書店 1900円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人原前監督が“愛弟子”阿部監督1年目Vに4日間も「ノーコメント」だった摩訶不思議

  2. 2

    巨人・阿部監督1年目V目前で唇かむ原前監督…自身は事実上クビで「おいしいとこ取り」された憤まん

  3. 3

    松本人志は勝訴でも「テレビ復帰は困難」と関係者が語るワケ…“シビアな金銭感覚”がアダに

  4. 4

    肺がん「ステージ4」歌手・山川豊さんが胸中吐露…「5年歌えれば、いや3年でもいい」

  5. 5

    貧打広島が今オフ異例のFA参戦へ…狙うは地元出身の安打製造機 歴史的失速でチーム内外から「補強して」

  1. 6

    紀子さま誕生日文書ににじむ長女・眞子さんとの距離…コロナ明けでも里帰りせず心配事は山積み

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    メジャー挑戦、残留、国内移籍…広島・森下、大瀬良、九里の去就問題は三者三様

  4. 9

    かつての大谷が思い描いた「投打の理想」 避けられないと悟った「永遠の課題」とは

  5. 10

    大谷が初めて明かしたメジャーへの思い「自分に年俸30億円、総額200億円の価値?ないでしょうね…」