本の散策を容易にする“新発明”
「蔡國強 帰去来」蔡國強著
蔡國強。2008年、北京オリンピック開会式でビジュアルディレクターを務める。「ビッグフット」の鮮烈な映像を覚えている読者も多いだろう。1957年、中国福建省生まれ。中国4大発明のひとつ「火薬」を用い、紙やキャンバスにイメージを定着させる大胆な手法で脚光を浴びる。
本書は日本国内では7年ぶりとなる個展(横浜美術館で開催)の公式カタログである。「出品作の紹介」「火薬絵画の制作ドキュメント」「蔡自身による自伝『99の物語』の日本語訳」の3部構成。本編に先立つ導入の3つ見開きには、作品の部分カットとともに、谷川俊太郎氏の詩の引用がレイアウトされている。蔡氏のビジョンを詩句に映し取りながらの穏やかな滑り出し。絶妙な構成だ。
タイトル「帰去来」は中国の詩人、陶淵明作「帰去来辞」より。芸術活動の原点である日本への「里帰り」、「火薬ドローイング」の再認識、加えて精神の自由、自然との融合など、実存的な「原点回帰」の意味も重ね合わせている。
A4サイズより一回り大きいハードカバー。角背、グロスPP加工あり。作品の「クローズアップ」写真が表紙全体を覆う。迫力と細部の共存。作家のネームバリューに見合う、押し出しの強さも十分だ。本文、全ページカラー。和文書体に「本明朝」を使用。90%ほどの長体(縦長に変形すること)が施されている。文字量を稼ぐためではないだろう。明朝体同様、中国に起源をもつ「宋朝体」の縦長フォルムへのオマージュではないかと想像する。