「天才」石原慎太郎著
ロッキード事件が発覚したのは40年前の2月。その1年半前の74年11月、現役総理・田中角栄の金脈問題が追及され、田中内閣は退陣に追い込まれた。当時反田中派の急先鋒として金権主義を批判したのが著者だった。その著者が田中角栄を「天才」と称揚して、彼の人生を跡づけたのが本書である。
幼少期には吃音で苦労したが、それを自ら克服。進学を断念して上京し、夜間部の土木科で学びながら、やがて建設事務所を立ち上げる。戦後すぐに衆議院総選挙に出馬し、2度目に当選。39歳で郵政大臣に就任すると、以後、大蔵大臣、通産大臣と重職を歴任し、54歳で総理大臣に。まさに破竹の勢いだが、ロッキード事件を機に暗転。それでも「闇将軍」として権勢を振るうが、派閥内の離反や裏切りにもさらされる。そうした波乱の軌跡が一人称語りでつづられていく。
ここには戦後日本の栄光と悲惨を一身に背負った政治家の肉声がある。著者はこれを書くことは歴史に対する自分の責任だとしている。本書は、「田中角栄」が必要となる時代が再び到来することの予兆なのだろうか?(幻冬舎 1400円+税)