「世界の無人航空機図鑑」マーティン・J・ドアティ著 角敦子訳
通販で購入した品や宅配ピザが、「空」を飛んで我が家に届く――そんな一昔前には想像もできなかった未来的光景が現実になりつつある。それを可能にしてくれるのが近年、何かと話題のドローン(無人航空機)だ。本書はドローンの歴史から、そのシステムや機能を代表的なモデルとともに詳述したカラー図鑑。
無人航空機を造ろうとする試みは軍用を中心に古くからあり、中には訓練したハトにミサイルをコントロールさせるという構想まであったという。
第2次世界大戦の頃になると、自律性のある航空機の開発が本格的に始まり、無線誘導システムの進化や小型電子機器の登場など、航空産業以外の分野での技術的進歩に開発を後押しされ、GPS(衛星利用測位システム)の運用開始によって、ドローンの完全自動操縦化が実現した。
4次元の戦闘空間で起きているという現代戦で、ドローンが果たしている役割などを解説しながら、実戦に投入されているさまざまな軍用ドローンを紹介。
戦闘ドローン=武器が装備できる無人攻撃機でもっとも知られるプレデター「MQ-1」は、1994年に初飛行を記録し、97年から生産が開始された。同機はボスニア・ヘルツェゴビナ紛争をはじめ、アフガニスタンやイラクでも大活躍したが、その活動の大半は伏せられたままだ。ちなみに、中国が実用化した戦闘ドローン「翼竜」は、このMQ-1にうり二つ。
他にもウサマ・ビンラディンの屋敷の監視や地元の無線を傍受して殺害作戦に貢献した長時間滞空型偵察ドローン「RQ-170センチネル」。一度の飛行で4日間も連続して高高度を維持できるという、液体水素を燃料にした初めての無人機「ファントムアイ」。さらに、握り拳よりも小さい小型偵察ドローン「ナノ無人機 ブラックホーネット」など。戦場や紛争地で、これらの最新機が人知れず空を行き交っていると思うと、背筋が少々寒くなる。
後半は無限の可能性を秘めた非軍事用ドローンを取り上げる。従来の方法よりコストや危険性が低いドローンは、考古学の測量から、治安や消火活動、野生動物の保護、医薬品やワクチンの輸送などの人道支援まで、さまざまな分野での利用が始まっている。
冒頭に触れたドローン宅配も、市街地ではまだ認可の問題などで実現が難しいが、沖合の島へドローンで荷物を運び、受け取った配達人が島内を配達するというスタイルで既に実用化が始まっている。
近い将来、我々の生活に欠かせない存在となるのは間違いないドローンの現在と未来を見渡す決定版。(原書房 3800円+税)