「今夜はコの字で」原作・加藤ジャンプ 画・土山しげる
コの字カウンターのある酒場をひたすら巡り歩く
世の中には、まったく新しい視点で物事を発見し、ウキウキとそれを探求する人間がいる。
この本の原作者・加藤ジャンプ氏は(多分)世界で唯一無二の“コの字酒場探検家”で、「コの字酒場はワンダーランド」「コの字酒場案内」といった著者を持つ。
キーワードは、もちろん“コの字”、つまりコの字形をしたカウンターのある酒場をひたすら巡り歩き、杯を干すのを生きがいにしてきたような人物なのだ。
指摘されてみれば、(そうなんですよねえ)と納得がいくのだ。たしかに、コの字カウンターの酒場はいい。たいていは下町か古町の横丁や路地の一角にあって、客も常連か老舗居酒屋好きの面々が集まる店。
値段も良心的で店も客も、エグゼクティブなどという舌をかみそうなムードなどありえようがない。出される酒肴もその店それぞれ、一本筋が通っている安心と信頼の庶民派飲み屋。先月未、刊行されたこの本書も選り抜きのコの字居酒屋が、土山しげるのリアルな漫画によって紹介される。
おお! 第1話は神楽坂の「焼鳥しょうちゃん」ではないですか。たしかに、ここの鳥皮はコリコリ香ばしく絶品。ちょっとごぶさたしているが、ワンタンスープも美味で胃に優しい。
第2話が錦糸町「三四郎」。かつてロシアンパブで話題となった錦糸町だが、ラブホ街はまだタフに生き残っている。そんな界隈の少し駅寄りにある「三四郎」、著者のコラムにあるとおり白木のカウンターを見れば、一目瞭然、心くばりの行き届いた居酒屋とわかる。ただし、開店早々満席、ということも少なくないので要注意。
他に横浜「のんきや」、自由が丘「ほさかや」、町田「酒蔵 初孫」など9店9話を収録。
著者は1971年、東京生まれ。一橋大学法学部、同大学院修了。こういう御仁がいるから、日本もまだ捨てたものではない。(集英社インターナショナル 1000円+税)