著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「僕が愛したすべての君へ」乙野四方字著

公開日: 更新日:

 いくら探しても見つからない、なんてことがありませんか。間違いなくここに置いたはずなのに、いざという時に、ないのだ。おかしいなあと首をひねった経験のある方は多いと思う。そういうことはこの仮説ですべて説明できる。つまり、この世界には数多くの平行世界が実在し、我々は日常的に、無自覚に、その平行世界間を移動しているのだと。近くの平行世界ほど元の世界との差異は小さく、ひとつ隣の世界とは朝食が米だったかパンだったか程度の差異しかない。この仮説を認めるなら、置いたはずのものがないという現象は、私たちが物忘れが激しいということではなく、平行世界間を移動しちゃっているからだ、という説明も成り立つのである。

 その平行世界の実在が世界的に認められた未来が舞台。高校生の高崎暦は、クラスメートの瀧川和音から突然声をかけられる。彼女は85番目の世界からやって来たというのだが、そこでは暦と恋人同士だったと告白する。ここから始まる物語で、どこに着地するのか分からないから、とてもスリリングだ。究極の初恋小説といってもいいが、同時発売の「君を愛したひとりの僕へ」を続けて読むともっと豊穣な世界が広がっていく。

 どちらから読んでも可、という趣向が最大のキモ。電撃小説大賞の選考委員奨励賞を受賞してデビューした人だが、むしろライトノベルやSFを読み慣れていない読者にこそおすすめしたいと思う。(早川書房 620円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元グラドルだけじゃない!国民民主党・玉木雄一郎代表の政治生命を握る「もう一人の女」

  2. 2

    深田恭子「浮気破局」の深層…自らマリー・アントワネット生まれ変わり説も唱える“お姫様”気質

  3. 3

    火野正平さんが別れても不倫相手に恨まれなかったワケ 口説かれた女優が筆者に語った“納得の言動”

  4. 4

    粗製乱造のドラマ界は要リストラ!「坂の上の雲」「カムカムエヴリバディ」再放送を見て痛感

  5. 5

    東原亜希は「離婚しません」と堂々発言…佐々木希、仲間由紀恵ら“サレ妻”が不倫夫を捨てなかったワケ

  1. 6

    綾瀬はるか"深田恭子の悲劇"の二の舞か? 高畑充希&岡田将生の電撃婚で"ジェシーとの恋"は…

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    “令和の米騒動”は収束も…専門家が断言「コメを安く買える時代」が終わったワケ

  4. 9

    長澤まさみ&綾瀬はるか"共演NG説"を根底から覆す三谷幸喜監督の証言 2人をつないだ「ハンバーガー」

  5. 10

    東原亜希は"再構築"アピールも…井上康生の冴えぬ顔に心配される「夫婦関係」