メディアの「選別」と「威圧」を強める安倍政権
戦後の日本では言論の自由が保障されているが、メディアが時の権力にひるみ、真実を歪める報道を行ってきた事例も数多く存在する。上出義樹著「報道の自己規制 メディアを蝕む不都合な真実」(リベルタ出版 2000円+税)では、自己規制という名の下で、伝えるべき真実を伝えないメディアの衰退と、その背景を徹底検証している。
近年の重大ニュースでは、福島第1原発事故に関する自己規制がその最たる例だ。事故発生直後、「炉心溶融」による放射性物質の大量飛散が想定され、住民の健康被害が懸念されたことから、朝日・読売・毎日・日経の4紙とも1面トップで情報を掲載した。ところが、わずか1週間ほどでこの報道は立ち消えている。
経済産業省原子力安全・保安院(以下、保安院)は、事故発生翌日の記者会見から炉心溶融の可能性について言及していた。ところが、この報道を見た当時の首相秘書官で経産省出身の貞森恵祐氏が、会見内容はすべて事前に報告しろと大激怒。以後、保安院の口は固くなり、メディアも政府との二人三脚を演じるような発表偏重姿勢にシフトしていった。国民の混乱を避けるためなどと言いつつ、「真実の追求」からは程遠い報道になってしまったと言わざるを得ない。
政府によるメディアへの圧力は、安倍政権で特に顕著になっている。報道各社の幹部らと、高級料亭やレストランでの会食や懇談を頻繁に行う一方、安倍政権に批判的なテレビ局の出演を拒否したり、特定のメディアを激しく攻撃するなど「選別」と「威圧」を進めている。結果、大手メディアは一様に安倍政権にすり寄る報道に傾いている。特に読者離れが進む新聞では、消費税増税に伴い、是が非でも新聞を優先的に軽減税率適用商品にしてもらわなければならない。安倍政権の機嫌を損ねることは、死活問題となるわけだ。
メディアが真実を伝えなくなれば、もっとも被害を受けるのはわれわれ国民だ。現在の報道の在り方に、疑問を持たなければならない。