ISを生む社会的背景は日本も例外ではない
「『イスラム国』最終戦争」国枝昌樹著
シリア情勢の変化とともに次第に追い詰められているといわれるIS(イスラム国)。しかし安心はできない――。
パリの雑誌社が襲撃された「シャルリー・エブド」事件からそろそろ2年。その後、パリ同時多発テロ事件まで、フランスはISを含むイスラム系テロリストの最大の標的になってきた。エジプト、イラク、シリアなどに長く駐在した元外交官の著者は、人権思想の定着しているはずのフランスの「自由・平等・博愛」が、建前に過ぎなくなっている実態を指摘する。
異人種は「よほどの才覚がなければ弱者のまま」、しだいに不満が鬱積し、軽犯罪を常習する「プチ悪」になる。それがイスラム国のプロパガンダに引っかかって「ローンウルフ」と呼ばれる悪性の隠(はぐ)れテロリストになるのだ。
他方、伝統的に警察権力の強いフランスは、いっそう「警察国家化」が進みつつある。それゆえ過激派の動きは表面的には沈静化するだろうが、本質は変わらず、たとえイスラム国が殲滅(せんめつ)されてもテロに走る若者たちの存在はなくならないとみる。「イスラム国」は決して別の世界ではない。「西側先進国の中に問題があるからこそ」根絶できないのだ。日本も例外ではないはずだ。(朝日新聞出版 820円+税)