夢の統合は消し飛びいまや解体の危機「岐路に立つEU」
「欧州 絶望の現場を歩く」木村正人著
10年前、産経新聞の支局長としてロンドンに赴任した著者。そのころEUの未来はバラ色と喧伝されていた。労働者層との経済格差に注目した著者は、グローバル化とデジタル化の福音を説く著名な英国の社会学者に、英国の現状は「日本の『失われた20年』の初期段階ではないのか」と迫った。だが、「それは日本だけの話」とはねつけられたという。欧州のエリート層は貧困に沈む低賃金層に無頓着で自動化と無人化の一本やりで未来を描いた。
しかし著者は、「働きたくても仕事がない」とつぶやくギリシャ人労働者は「筆者が育った大阪市西成区・あいりん地区の日雇い労働者より無気力な表情」だったという。移民の流入に伴う雇用不安に加え、テロの脅威が無用の混乱までをも引き起こし、犯罪組織や武器・麻薬・放射性物質の闇市場までが拡大している。
庶民の目線を重視する著者は、いま一介のフリージャーナリストとして、単なる経済問題に限らない政治・社会を巻き込んだ欧州の厳しい現実に目を向けている。(ウェッジ 1300円+税)