「石橋湛山」増田弘著

公開日: 更新日:

「体系だった理論と、徹底した合理主義、常識など意に介さぬ独創性、タフな精神力と溢れ出る熱情、いくつもの抽出しを持つスペシャリストでジェネラリスト……」

 45年にわたって湛山研究を続けてきた著者は、冒頭で、湛山の資質や人間的魅力を、語っても語り尽くせないかのように並べている。

 リベラリスト湛山は、ジャーナリスト、エコノミスト、政治家として、波乱の生涯を生きた。希代の論客の思想の全容と人生の軌跡を丁寧にたどった人物評伝。

 湛山は明治17年、日蓮宗の寺に生まれた。中学の校長が札幌農学校のクラーク博士に学んだ敬虔なキリスト教徒だったこともあり、少年時代から幅広い精神土壌を育んでいく。

 戦前は東洋経済新報社のジャーナリストとして、帝国主義的領土拡張路線、いわゆる「大日本主義」に反論、「小日本主義」を唱えた。

 言論弾圧に屈せず戦時体制を乗り切ると、戦後は国難に向き合うために政治の世界に入り、経済復興に力を尽くす。

 一方で、対米自立を主張してGHQや吉田茂を敵に回し、不当な公職追放の憂き目に遭った。

 追放解除後、鳩山内閣の通産大臣を務め、1956年、72歳で総理大臣の地位についたが、病気のため2カ月で退陣。「悲劇の宰相」と呼ばれた。

 回復後、脱冷戦を主張、「日中米ソ平和同盟」の実現を目指す。この活動は、田中角栄による日中国交回復につながった。

 湛山は歴史の激動期を生きながら、己を曲げず、反骨の生涯を貫いた。湛山が主張する「小日本主義」や「日中米ソ平和同盟」が実現していたら、日本は、世界は、別の道を歩めたかもしれない。今こそ、湛山の思想と行動に学ぶべきではないだろうか。(ミネルヴァ書房 3500円+税)


【連載】人間が面白い

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    火野正平さんが別れても不倫相手に恨まれなかったワケ 口説かれた女優が筆者に語った“納得の言動”

  2. 2

    【独占告白】火野正平さんと不倫同棲6年 元祖バラドル小鹿みきさんが振り返る「11股伝説と女ったらしの極意」

  3. 3

    立花孝志氏の行為「調査要求」オンライン署名3万6000件に…同氏の次なるターゲットは立憲民主党に

  4. 4

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  5. 5

    眞子さん渡米から4年目で小室圭さんと“電撃里帰り”濃厚? 弟・悠仁さまの成年式出席で懸念されること

  1. 6

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動

  2. 7

    オリ1位・麦谷祐介 暴力被害で高校転校も家族が支えた艱難辛苦 《もう無理》とSOSが来て…

  3. 8

    斎藤元彦知事に公選法違反「買収」疑惑急浮上しSNS大炎上!選挙広報のコンサル会社に「報酬」か

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    無教養キムタクまたも露呈…ラジオで「故・西田敏行さんは虹の橋を渡った」と発言し物議