主夫として息子ふたりを育てた小説家の“イクメン”エッセー
子育てに参加する父親は“イクメン”と褒めたたえられるが、考えてみれば違和感のある言葉だ。家庭とは夫婦が協力して築いていくものであり、中でも育児は夫婦の共同作業であるべき最たるもの。子育てに関わるだけで特別な呼び方をされる時点で、日本ではまだ父親の子育てへの参加が少ないことを表している。
仕事では味わえない発見と感動に満ちた子育てを、妻だけに任せておくのはもったいない。佐川光晴著「おいしい育児」(世界思想社 1300円+税)は、主夫としてふたりの息子を育ててきた小説家のエッセー。小学校教諭の妻を支え、育児にどっぷりと漬かってきたからこそ感じられた、子供の成長への驚きや喜びがつづられている。
現在、長男は22歳、次男は14歳となり子育ても一段落しているが、とりわけ長男の夜泣きには苦しめられたと振り返る。長男が夜泣きを始めたのは生後2カ月ごろで、妻は育児休暇中であったが、長い夜をひとりで乗り切らせるのは忍びなく、毎晩午前1時以降は著者が引き受けた。ちなみに当時、小説執筆の傍ら食肉解体の仕事もしていたため、寝不足でふらふらになりながら仕事に向かったそうだ。
長男は夜泣きを始めると、立って抱っこし揺らし続けなければ絶対に眠ってくれなかった。ようやく眠っても布団に寝かすと途端に泣き出すため、抱っこの体勢のまま一緒に横になり、左腕を赤ん坊の頭の下に入れた腕枕状態で添い寝する夜が1年以上続いた。やがて保育園に通うようになった長男は、保母さんたちから「頭の形がきれいだ」と絶賛されるようになる。夜泣きをしている期間、長男は枕に頭をつけて寝たことがなかった。その甲斐あってか、ふっくらときれいな後頭部になっていたのだ。
腕のしびれに耐えて夜泣きに付き合うことができたのはなぜか。それは、著者が自身の両親から「あなたの夜泣きには苦労させられた」と聞いていたためであった。両親の苦労話を聞いていたからこそ、自分も当たり前のようにわが子に寄り添えた。すでに長男にも夜泣きの話を聞かせているため、彼が父親になっても同じようにわが子に寄り添えるはずだと著者。
父親の育児参加が、家庭円満と子育て成功の鍵であることを教えてくれる。