「キャバレー、ダンスホール 20世紀の夜」今井晶子・奥川純一・西村依莉著
今年1月に惜しまれつつ閉店した銀座の老舗「白いばら」をはじめ、かつて「大人の社交場」として多くの男性たちで賑わったキャバレーやダンスホールが次々と姿を消している。
若い世代には未知の世界かもしれないが、生演奏をバックにした華麗なショーを見ながら、ボックス席で酒を片手にホステスと語らい、カクテルライトに照らされたダンスフロアではホステスと踊ることもできる――ちょっといかがわしくもあるが、きらびやかで、夢のようなひとときが楽しめる大人のエンターテインメント、それがキャバレーだ。
その店内は、ゴージャスなシャンデリアや密会気分が味わえるボックスシート、ゴールドや赤、黒を多用する豪華な内装など、細部に至るまで、夢のひとときを過ごしてもらおうという経営者たちの思いが結実した非日常空間となっている。
本書は、昭和のテイストがぎっしりと詰まったそんなキャバレー、ダンスホールの魅惑の店内を紹介する写真集。
キャバレー発祥の地とされる大阪の千日前「グランドキャバレー ミス大阪」(写真①)は、戦前に「カフェー」としてスタートしてから現在まで続く老舗中の老舗。アクセントにゴールドを使用したグラデーションのモザイク壁や、吹き抜けに数百個吊るされた花形のランプなどが空間を賑やかに彩る。
「白いばら」の閉店で東京に唯一残るキャバレー「ハリウッド」グループも、一時は40店舗以上系列店があったが、いまは赤羽と北千住の2店のみ。日本一安く楽しめる大衆キャバレーを標榜していた同グループだが、かつてあった銀座店はどの店舗よりも内装にお金をかけていた。
赤羽店(写真②)は、入り口で客を出迎える豪華なレリーフなど銀座店をはじめさまざまな店舗から持ち寄った照明器具や什器で装飾され、いわばハリウッドの「集大成的な空間」になっているという。
その他、西日本に展開し、現在、日本最大のキャバレーチェーンを築く「日本一桃太郎」の各店舗や、昨夏、53年の歴史に幕を閉じたが最盛期には入場待ち客の受け皿として地下に併設した100人収容の喫茶店にも客があふれかえったという東京・蒲田の「レディタウン」など11店舗と、絶滅寸前のダンスホール2店舗、そしてキャバレーの内装をそのまま流用して現在はイベント会場として活用されている4店舗を網羅。
中には92歳の日本最高齢ホステスがいるキャバレーもある。その人、フサエさんは熊本県八代市の「キャバレー白馬」(写真③)の創業者・西田氏の妻で、同店はクラブシンガーを目指していた15歳の八代亜紀が年齢を偽ってステージに立った店でもある。62年の移転時に建築からデザインまで西田氏が手掛けたという建物は、2年前の熊本地震でも被害が出なかったという。
そうした店にまつわるエピソードも満載に、ノスタルジックな感傷を抱かせる昭和な世界を案内してくれる貴重な記録本。
(グラフィック社 1800円+税)