暖かなまなざしで描くハートウォーミングな物語

公開日: 更新日:

「むすびや」穂高明著/双葉文庫556円+税

「おむすび」と「おにぎり」の違いは何か? 通説では、東日本ではおにぎり、西日本ではおむすびとされることが多いようだが、実際にはそう截然と分けられるわけではなく、地域によっては形状で呼び分けているところもあるという。一般社団法人おにぎり協会の見解によると、「おにぎりとおむすびの呼び方の違いは、家庭・個人レベルの違いである」そうだ。おむすび屋が舞台の本書だが、章立てが「おかか」「梅」「生たらこ・焼きたらこ」と、おむすびの種類になっているところがミソ。

【あらすじ】
勉強もそこそこ、運動もそこそこ、特に好きなことも嫌いなこともない。大学生活においてもぬるま湯に浸りきっていた結は、就活に完敗。仕方なく家業のおむすび屋を手伝うことになった。

 幼い頃から女の子のような名前と家の商売にコンプレックスを感じていた結だが、おむすびに適したコメを選び、付け合わせのぬか漬けは自家製、おかかも注文の都度、かつお節削り器で削っていくという両親のこだわりを知り、感心する。そんなこだわりもあって、店には少なからぬ常連客がついていた。結の中学時代の国語の教師、富田清美もそのひとりだ。

 中学校の球技大会のときに結の家が差し入れた梅のおむすびが母の作ってくれたおむすびと同じ味なのに驚いた覚えがあった。それから7年。母が突然亡くなり、葬儀を終えた清美の足は自然と結の店へと向かう。梅むすびを口にすると懐かしい母の味がして清美は思わず涙を落とす……。

【読みどころ】
コンビニ全盛の現在、町の小さな店がけなげに頑張る姿を温かなまなざしで描くハートウオーミングな物語。おむすびの描写も巧みで、読みながら思わずお腹が鳴ってしまう。
<石>

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    都知事選2位の石丸伸二氏に熱狂する若者たちの姿。学ばないなあ、我々は…

  2. 2

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  3. 3

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 4

    竹内涼真“完全復活”の裏に元カノ吉谷彩子の幸せな新婚生活…「ブラックペアン2」でも存在感

  5. 5

    竹内涼真の“元カノ”が本格復帰 2人をつなぐ大物Pの存在が

  1. 6

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  2. 7

    二宮和也&山田涼介「身長活かした演技」大好評…その一方で木村拓哉“サバ読み疑惑”再燃

  3. 8

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  4. 9

    小池都知事が3選早々まさかの「失職」危機…元側近・若狭勝弁護士が指摘する“刑事責任”とは

  5. 10

    岩永洋昭の「純烈」脱退は苛烈スケジュールにあり “不仲”ではないと言い切れる