「秘境駅の謎 なぜそこに駅がある!?」 「旅と鉄道」編集部編
全国にある約1万もの鉄道駅の中には、周囲に民家が一軒もない駅や、道路すらなく列車を降りてもどこにも行けないような駅がある。過疎化による集落の消滅やダム建設による孤立など、理由はさまざまだが、それでも毎日、定刻通りに列車は止まる。
線路以外何もない駅、そんな秘境駅の魅力を紹介するビジュアルガイドブック。
全国各地の秘境駅500駅以上をめぐり、この世界のパイオニアである自称「秘境駅訪問家」の牛山隆信氏は、その魅力を「『何もないところ』の居心地の良さに気づき、駅に降りるだけで雑多な日常から解放され、童心に帰って自然体験が出来る」ことだという。
氏が、今こそ行くべき秘境駅として推薦するのが、根室本線(北海道)の「古瀬駅」(写真①)だ。釧路から約1時間の同駅は、1954(昭和29)年に信号場として開設され、周辺に職員用官舎が20戸ほど建っていた。しかし、信号場の無人化にともなって官舎も撤去され、現在、上下合わせて1日7本の列車が停車するが、板張りのホームに降り立つ人はほとんどいない。
他にも、ホームから四方八方を見回しても人工物が見当たらない同線の「初田牛駅」や、赤いホウロウ看板がアクセントの可愛らしい駅舎とお立ち台のようなホームがあるだけの宗谷本線「北星駅」が推奨される。
なぜ、今、行くべきなのか。秘境駅は、地域の経済が廃れ、人々が去ってしまった結果として生まれるゆえに、秘境駅がある路線は、そう遠くない将来に廃線となる運命だからだ。
東海道本線の「豊橋駅」(愛知県)と中央本線の「辰野駅」(長野県)を結ぶ全長195・7キロの飯田線は、秘境駅の宝庫。特に水窪~天竜峡間には、車では行くことができない「小和田駅」や、1日の乗車客数約1人の「金野駅」など7大秘境駅が密集する。
本書では、その区間を1泊2日で往復して7つの駅すべてを堪能する冒険ルポや、秘境的要素が多い「秘境路線」を紹介。その他にも、「秘湯」もセットで味わえる秘境駅や、四国山中にある「坪尻駅」(写真②)の1日を追った写真ルポ、さらに「乗り鉄」でもあるアイドルの伊藤桃さんが、日本一の秘境駅といわれる室蘭本線「小幌駅」を訪ねるドキュメンタリーなど、さまざまな企画で秘境駅の魅力に迫る。
秘境駅というと、都会から遠いローカルな路線を想像するが、実は東京駅からたった30分で行ける秘境路線もある。
1日9往復、最大運行間隔が8時間半という「大川駅」や、事業所の敷地内にあって、関係者以外は隣接された海が眺められる公園以外に駅の外に出ることが出来ない「海芝浦駅」(写真③)があるJR鶴見線の支線がそれだ。
さらにJR青梅線の「白丸駅」をはじめ、京都や大阪など都心から1時間で行けるお手軽秘境駅も網羅。
秘境駅の楽しみ方はひとそれぞれ。ひとたび駅に降り立ったら、次の列車が来るまでの時間をどう過ごそうがその人の自由だ。初心者にも、急増中の秘境駅ファンにもおすすめの中身の濃い鉄道本。
(山と溪谷社 1600円+税)