「最強部活の作り方 名門26校探訪」日比野恭三氏

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「ブラック部活動」という言葉がある。教員に過重な負担を強いる部活のあり方を見直そうという動きもあって、ここ2年ほどで急速に広まってきた。そんな中、日大アメフト部の事件が発生。日本の部活、ヤバいんじゃないか。そんなムードにあえて切り込んだ一冊だ。県立世羅高校陸上競技部、私立下北沢成徳高校バレーボール部など日本一に輝いた高校の部活27部を取材し、その強さの秘密を探る。

「きっかけは私立東福岡高校でした。2015年から16年にかけて、同校のバレー、サッカーラグビー部が立て続けに全国優勝というニュースが飛び込んできて。こんなに複数の運動部が、しかも世代交代しても強いのはなぜか、知りたくなったんです」

 甲子園に公立校が出場すると「練習時間の短い中で」と紹介されるように、一般に私立は練習時間や施設に恵まれ、強い選手をセレクションで集める、というイメージが強い。しかし取材してみると、次々にイメージが覆されたという。

 東福岡の場合、練習施設こそ整っているものの、どの部も練習は通常の授業終了後からで、サッカー部の照明は夜8時前には落ちる。入部の際にセレクションもない。

「取材の初めに、校長先生に『校名を宣伝して生徒を集めるために部を強化しているのでは?』と遠慮のない質問をしたんです。でも『部活が強い=生徒が集まる、ではない。保護者と生徒の最大のニーズは進路保証』とはっきり否定されましたね。部活が強くなると学業にも影響が出て、進学実績が上がったそうです」

 異なる強豪部活の部員同士が同じ教室にいて、指導者たちは職員室で隣同士。「日本一」が共通の話題だ。校内は、彼らが醸し出す熱気で満ちる。

 東福岡の強さの源はこの「空気」にあると著者は分析する。

 施設に恵まれないのに強いというユニークな部もある。男子100メートル走で日本人初の9秒台を達成した桐生祥秀を輩出した、私立洛南高校陸上部だ。桐生卒業後もインターハイの陸上男子総合で史上初の3連覇を達成するなど圧倒的強さを誇るがグラウンドは対角線でもわずか80メートルしかない。

「洛南は狭さゆえに練習を工夫して『深さ』を追求した結果、うまくいったんです。監督はもちろん科学的トレーニングも研究して取り入れていますけど、陸上の指導者である以前に教師なんですよ。だから生活面を厳しく言うし、上下関係を明確にするけれど、その一方で生徒の自主性を大事にしています。生徒もその考えをちゃんと理解しているから、監督が絶対権力という感じじゃない。これは取材した26校に共通していましたね。自主性を育むのって、教育の一部としての部活では大事なことなんでしょう」

 共通点は他にもある。どの部も一朝一夕には強くなっておらず、ひとりの、あるいは複数の指導者や地域全体として積み重ねた歴史があった。

「30年くらい前は『スクール☆ウォーズ』のように、血と汗と涙が絆をつくり、大舞台で奇跡を起こす、というスポ根が主流でした。でも奇跡はそう何度も起きない。再現性がなかったんです。指導者たちはスポ根のやり方を反省して試行錯誤して、今は自分が上から引っ張るのではなく、一歩引いて生徒の側から成長させる、というスタイルになってきています」

 全員顧問制など、部活が教師に負担を強いていることは確かに問題だと著者は言う。

「今後、活動時間については是正されていくでしょうね。ただ、学校の部活だから得られるものってあるはずだし、部活のない高校生活なんてつまらないと僕は思います」

 (文藝春秋 1650円+税)

▽ひびの・きょうぞう 1981年、宮崎県生まれ。2001年東京大学(理科Ⅱ類)入学。04年退学。広告代理店等での勤務を経て雑誌「Number」契約編集者に。16年フリーライターとして独立。主な執筆テーマは野球ボクシング、スポーツビジネス等。横浜DeNAベイスターズ公認ライター。

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