「国宝の解剖図鑑」佐藤晃子著

公開日: 更新日:

 国宝は、その名の通り、国の宝であり、国民の宝。見る者を感嘆させ、魅了し、そして誰もが納得する圧倒的な存在感を放つ。それもそのはず、重要文化財の中から、文化史的、歴史的意義が高いと判断されたものが国宝に指定されるのだが、指定にはさまざまなハードルを乗り越えなければならない。その上で、専門家による調査会が、文化庁からリストアップされた候補の指定の可否を検討し、委員の1人でも反対すれば、指定されることがないという狭き門なのだ。

 現在、国宝に指定されているのは8分野で1110件。本書は、その中から主に、絵画、彫刻、工芸品、建造物93件の見どころや公開情報などを紹介するイラスト図鑑。

 例えば、大阪の葛井寺の本尊である「千手観音菩薩坐像」。千の手を持ち、ありとあらゆる者を救うとされる千手観音の手は、通常、省略されて42の手を持つ像で表されることが多い。しかし、8世紀中ごろ、天平時代に造像された日本最古というこの国宝の千手観音は、本当に計1041本もの手を持っているのだ。人々を苦しみから救うためにその手に持つ持ち物の意味などの解説を読んだだけで、実物に会いたくなってくる。

 ほかにも聖徳太子の妃が亡夫を偲んで作らせた日本最古の刺しゅう「天寿国繍帳」(奈良・中宮寺)や、新潟・十日町市博物館収蔵の通称「火焔型土器」、福岡市博物館収蔵の「金印」、俵屋宗達の「風神雷神図屏風」(京都・建仁寺)、日光東照宮「陽明門」(栃木)など、初めて知るものから、教科書などでお馴染みの国宝まで、ずらり。

 年間公開日数は60日以内、移動は年2回以内と定められているため、国宝を直接鑑賞するのは意外にも難しいという。鑑賞のガイドに、そして自分たちの宝をより知るテキストとしてお薦め。

(エクスナレッジ 1600円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁“”化けの皮”が剝がれたともっぱらも「業界での評価は下がっていない」とされる理由

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    僕の理想の指導者は岡田彰布さん…「野村監督になんと言われようと絶対に一軍に上げたる!」

  4. 4

    永野芽郁は大河とラジオは先手を打つように辞退したが…今のところ「謹慎」の発表がない理由

  5. 5

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  1. 6

    大阪万博「午後11時閉場」検討のトンデモ策に現場職員から悲鳴…終電なくなり長時間労働の恐れも

  2. 7

    威圧的指導に選手反発、脱走者まで…新体操強化本部長パワハラ指導の根源はロシア依存

  3. 8

    ガーシー氏“暴露”…元アイドルらが王族らに買われる闇オーディション「サウジ案件」を業界人語る

  4. 9

    綱とり大の里の変貌ぶりに周囲もビックリ!歴代最速、所要13場所での横綱昇進が見えてきた

  5. 10

    内野聖陽が見せる父親の背中…15年ぶり主演ドラマ「PJ」は《パワハラ》《愛情》《ホームドラマ》の「ちゃんぽん」だ