最新 文庫ミステリーで左脳を活性化しよう編
「ホワイトコテージの殺人」マージェリー・アリンガム著 猪俣美江子訳
季節ははや処暑。暑さで緩んだ頭をミステリーで引き締めよう。
作者の仕掛けたワナをかいくぐり、推理を積み重ねて真相にたどり着けたときの爽快感は何物にも替え難い。まんまとだまされて敗北感に打ちのめされるのもまたよし。いざ5つの迷路の入り口へ――。
◇
白亜荘で殺人が起きた。ダイニングルームに腰から上はほとんど粉々になった死体が横たわり、テーブルの上に単銃身の散弾銃が載っていた。被害者は隣の砂丘邸に住むエリック・クラウザー。白亜荘の主人、ロジャー・クリステンセンの妻、エヴァの娘時代からの知人で、エヴァの娘、ジョーンが生まれた翌年に引っ越してきて以来、エヴァにしつこく言い寄っていた。
捜査に当たったW・T・チャロナーは、散弾銃がテーブルの上から発射されたことに気づいた。なぜ、わざわざこの上で? W・Tはロジャーが車椅子に乗っていることに注目したが、車椅子の幅は27インチ半で、幅26インチのドアを通り抜けることはできない。検視した医師が、死体がひっくり返されていて、誰かがその胸ポケットを探ったと指摘した。
イギリスの静かな村の、悪意によって引き起こされた殺人事件の謎を解く本邦初訳作品。
(東京創元社 940円+税)
「ブルックリンの少女」ギヨーム・ミュッソ著 吉田恒雄訳
作家のラファエルは本当のアンナを知らないという恐れから、「ぼくは真実を知りたい」とアンナを詰問した。アンナは「これがわたしのやったこと……」と1枚の写真を見せた。それは3つの焼死体の写真だった。その後、アンナの携帯に電話しても留守番電話にしかつながらなくなった。ラファエルはアンナの部屋に隠されていた黄色いスポーツバッグを見つけた。中には40万ユーロの札束が入っていた。
現在、研修医をしているアンナが通っていたカトリック系の女子校の学園長に会い、アンナ・ベッケルというのは学園長の姪の名だということを知った。ラファエルの友人の元警部、マルクは、指紋から、アンナの本名はクレア・カーライルで、ハインツ・キーファー事件の被害者だったことを探りだす。
過去から逃れようとする女性を巡る闇を描く、フランス・ナンバーワン作家のベストセラー。
(集英社 1000円+税)
「極夜の警官」ラグナル・ヨナソン著 吉田薫訳
10月だというのに太陽がめったに顔を見せない、アイスランド最北の町、シグルフィヨルズル。インフルエンザで寝ていた警察官のアリ=ソウルは携帯電話の音で起こされた。署長の妻からで、アリ=ソウルの代わりに出勤したヘルヨウルフル署長が出かけたきり戻らないという。アリ=ソウルは町外れの空き家の近くで倒れている署長を発見した。銃で撃たれて血だらけだが、かすかに脈が触れた。署長の息子は、その空き家で麻薬売買が行われ、それには政治家が関与していると言う。50年前、住人の双子の一人がバルコニーから転落死するという事故があった家だ。やがて署長が撃たれる前に市長に電話していたことが判明する。夜の10時にどんな用件で?
そして教師のインゴルフルが、自宅のガレージから銃が盗まれたと言い出した。14カ国で翻訳された北欧ミステリーの人気シリーズ第2弾。
(小学館 750円+税)
「ザ・スパイ」パウロ・コエーリョ著 木下眞穗訳
1917年、二重スパイ、マタ・ハリはパリで銃殺刑に処された。オランダのレーワルデンで、マルガレータ・ゼレは生まれ育った。
ライデンの私立学校に入ったが校長にレイプされ、その状況から逃れるために、新聞広告で結婚相手を求めていた将校と結婚する。20歳年上の夫と東インドに渡り、その地でジャワの民族舞踊を見て、彼女はトランス状態に陥る。そんな彼女に夫が魅入られたことに気がついた士官の妻が、衝動的にピストル自殺する。それを知った夫はマルガレータを連れてオランダに逃げ帰った。ひそかにフランス領事館を訪れたマルガレータは、領事に東洋の舞踊家「マタ・ハリ」と名乗る。そして、パリで妖艶な踊り手として人々を魅了するが……。
フランスとドイツの二重スパイとされたマタ・ハリの手記の形で、その人生の謎を探った話題作。
(KADOKAWA 800円+税)
「渇きと偽り」ジェイン・ハーパー著 青木創訳
幼なじみのルークが妻と幼い息子を殺して自殺した。なぜか生後13カ月の赤ん坊だけ一人残して。兄の死体からたった9歩の位置に寝ていたのに……。
連邦警察官、アーロン・フォークは20年ぶりに生まれ育った町、キエワラに帰ってきた。かつてある事件のために逃げるように去った町だった。
彼を葬儀に呼んだルークの両親は、息子の汚名をすすぐために真相を突き止めてほしいと頼んだ。地元の警察の巡査部長、レイコーに話を聞くと、ルークが持っていた銃はウィンチェスター製なのに、3人の命を奪った装弾はレミントン製だという。小学校校長のホイットラムは、ルークの息子はあの日、校長の自宅に遊びに来るはずだったのにと悔やんだ。
オーストラリアの田舎町を舞台に、連邦警察官が幼なじみの死の真相を追う英国推理作家協会賞受賞作。
(早川書房 1000円+税)