北上次郎
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北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ドライブインまほろば」遠田潤子著

公開日: 更新日:

 苦しくなる。いつもそうだ。それなのに、読んでいると苦しくなるのに、遠田潤子の新作が出ると、いつもすぐに読むのはどうしてなのか。

 今回の舞台は、峠越えの旧道沿いで細々と営業を続ける「ドライブインまほろば」。そこに幼い妹を連れた少年が、ある日舞い込んでくる。夏休みが終わるまでここに置いてくださいと。冒頭でこの少年が父親を殺したことを読者は知らされている。あとでそれが義父であることがわかるのだが、その義父殺しの場面から本書の幕が開くのだ。

 さびれたドライブインを経営する比奈子は幼い2人を受け入れて、束の間の幸せが始まっていく。比奈子には幼い娘を亡くした過去があり、少年たちを受け入れたことにはそういう影響もある。

 その近くに、10年に一度だけ現れる幻の池があるという。その10年池で一晩過ごせば生まれ変わることが出来る、というのがこの地に伝わる伝説だ。それを聞いてから少年は、幻の池を探し始める。つまり、彼は生まれ変わりたいのである。義父を殺すような人生ではなく、違う人生を生きたいのだ。幻の池は、少年の夢を映す鏡でもある。はたして少年は10年池を見つけることが出来るのかは、ここに書かないでおく。なぜ少年は義父を殺したのか。その真実はずっと明かされないまま物語は進んでいく。それが噴出するラスト30ページが圧巻。遠田潤子の傑作だ。

(祥伝社 1700円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

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