著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ベルリンは晴れているか」深緑野分著

公開日: 更新日:

 第2次大戦末期のヨーロッパを舞台にした「戦場のコックたち」は実に鮮烈な小説だった。アメリカのコック兵が戦場で出合う「日常の謎」を描くミステリーだったが、「日常の謎」とはいっても、野戦病院の場面にむせかえるような血のにおいが充満していたように、冷たくリアルな戦場シーンが印象的な小説であった。

 今回もたっぷりと読ませて飽きさせない。今度の舞台は、戦争が終結したばかりのベルリン。焦土と化した街は、米英仏ソの連合軍の統治下におかれているが、早くも米英仏とソ連のにらみ合いは始まっている。

 街には死体が転がり、道行く人は手首に白いものを巻いている。降参した印を目につくところに置いてないと何をされるかわからないのだ。

 そういう街を歩いていくのは、ドイツ人の少女アウグステ。恩人の死を伝えるために甥を捜しに旅に出たのだ。同行するのは陽気な泥棒カフカ。この2人がさまざまな人に出会いながら、焦土と化した街を歩いていく。つまりこれは、ロードノベルだ。

 恩人の死を伝えるためだけに苦難の旅を続けるのは、いくらなんでもヘンだという気もするけれど(きっと何かが隠されているのだろうが、それが何なのかは分からないのだ)、その真相が明かされるラストが圧巻。

 人物造形も描写も相変わらず素晴らしく、さらに途中にヒロインの過去が挿入されるが、この構成もよく、一気読みの傑作だ。

 (筑摩書房 1900円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元グラドルだけじゃない!国民民主党・玉木雄一郎代表の政治生命を握る「もう一人の女」

  2. 2

    深田恭子「浮気破局」の深層…自らマリー・アントワネット生まれ変わり説も唱える“お姫様”気質

  3. 3

    火野正平さんが別れても不倫相手に恨まれなかったワケ 口説かれた女優が筆者に語った“納得の言動”

  4. 4

    粗製乱造のドラマ界は要リストラ!「坂の上の雲」「カムカムエヴリバディ」再放送を見て痛感

  5. 5

    東原亜希は「離婚しません」と堂々発言…佐々木希、仲間由紀恵ら“サレ妻”が不倫夫を捨てなかったワケ

  1. 6

    綾瀬はるか"深田恭子の悲劇"の二の舞か? 高畑充希&岡田将生の電撃婚で"ジェシーとの恋"は…

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    “令和の米騒動”は収束も…専門家が断言「コメを安く買える時代」が終わったワケ

  4. 9

    長澤まさみ&綾瀬はるか"共演NG説"を根底から覆す三谷幸喜監督の証言 2人をつないだ「ハンバーガー」

  5. 10

    東原亜希は"再構築"アピールも…井上康生の冴えぬ顔に心配される「夫婦関係」