「東京いちどは訪れたいお寺の名建築」小岩正樹監修 大浦春堂文

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 駅名にもなっている「護国寺」や「泉岳寺」「九品仏」をはじめ、東京にも多くの古刹があるが、信者や歴史好き、そして近所に住んででもいない限り、わざわざ足を向ける人はそう多くはないのではなかろうか。

 しかし、実際に訪ねてみると、都会のビル群に囲まれながら、喧騒とは無縁の静寂な空気に満ちており、境内に立つだけで、心が洗われるような気分になる。本書は、都内に数多くあるそんな古刹の中でも、建築的に見どころの多いお寺を紹介してくれるビジュアル・ガイドブック。

 著名人の葬儀なども数多く営まれる「浄土真宗本願寺派 築地本願寺」の歴史は古く、1617年の建立。当初は、浅草横山町にあったが明暦の大火で焼失し、幕府の復興計画で八丁堀の海上を再建場所に指定された。そこに門信徒が海を埋め立てて再建用の土地を築いたことが、築地という地名の由来だという説もあるそうだ。

 異国情緒にあふれる古代インド風の石造りの本堂は、1934年に建てられたもの。設計した建築家・伊東忠太は、幻獣や動物に造詣が深く、重厚なたたずまいの堂内いたるところに動物のモチーフが使われている。

 一方、大田区にある「池上本門寺」は、日蓮上人入滅の地として知られる。病気療養のため常陸に向かう途中、武蔵国池上の領主・池上宗仲の館で亡くなったと伝えられ、その後、宗仲によって寄進された約7万坪の敷地に寺院が建立された。

 表参道の石段は、法華経を信心していた加藤清正が寄進したと伝えられ、戦火を逃れた総門は、広重の「江戸土産」にも描かれている。さらに関東最古の五重塔や、鮮やかな色彩の多宝塔など、敷地内には貴重な建築物が数多く残っている。

 目黒区碑文谷の「圓融寺」は、平安時代に慈覚大師によって創建されたと伝わる天台宗の寺院。創建当時は「法服寺」と名付けられていたが、長い歴史の中、他宗の寺院となっていた時期もあり、再び天台宗に改宗し、1834年に今の名に改められ、現在に至る。

 室町時代初期の建立とされる入り母屋造りの釈迦堂は、都区内最古の木造建築で国の重要文化財、1559年作の黒漆塗りの仁王像は、都の有形文化財に指定されている。

 他にも、拍手をすると呼応するかのように音がなる「鳴き龍」が本堂ロビーの天井に描かれた墨田区の「諸宗山 回向院」などの名刹をはじめ、寺内に室町時代に建てられた本堂や阿弥陀堂、切り妻造りの茅葺き屋根をもつ仁王門など、文化財に指定されている建造物や宝物類が数多く保存されている青梅市の「塩船観音寺」や、鹿鳴館を設計した英国人建築家による「鉄門」など和洋折衷の珍しい建造物など見どころが満載の杉並区の「堀之内 妙法寺」までエリア別に30寺を紹介。

 京都や鎌倉などにも決してひけを取らない、東京の寺院建築の新たな魅力を教えてくれる。

(エクスナレッジ 1600円+税)

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