「男子部屋の記録」小野啓著

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 表紙を開くと、賃貸マンションや年季の入ったアパートなど、共同住宅の廊下の写真が数葉並ぶ。どんな町でも見ることができる日常の光景だ。本書のテーマは、そのずらりと並んだドアの向こう側の世界。そこには扉一枚を隔てて、画一的な廊下側からは想像もできない個性豊かな空間が広がっている。

 タイトルからもお察しの通り、学生から社会人、フリーターなどさまざまな肩書の男性たちが暮らす究極のプライベート空間を撮影した写真集だ。

 美大生の庄司洋介さんが暮らすワンルームは、男子大学生の部屋と聞いて万人が頭に思い描く部屋を見事に体現している。机、本棚、ベッドなどの家具は本来の仕事を見失い、必要なものなのかゴミなのか、写真からは判別できぬさまざまなモノが天井からぶちまけたように部屋中に散乱している。大学まで近いことと安さで選んだという部屋の家賃はなんと3万円。だが、アパート内でこの部屋だけが安くて不安だともいう。

 建築を学ぶ大学生の大門亮太さんは、ホームセンターで買ってきた材料で家具を自作するのが基本。押し入れをカスタマイズした机は、なんだか昭和の少年の部屋のようでもある。

 会社員の山口和之さんが、20年近く住む南浦和駅から徒歩10分の2Kは、カンフー映画のDVDや60年代ロックのレコード、アイドルグッズ、そしてゲームと好きなもので埋め尽くされ、興味のない他人には雑然と見える部屋も、本人にとっては子どものころの夢を実現したとっておきの空間だという。

 かと思えば、会社員の上田悠一郎さんが住む部屋は、家具の素材やタオルや靴の並べ方まで統一され、一分の隙もない。

 部屋には、その人が生きてきた時間が堆積している。無造作に置かれた家具や小物などさまざまなモノから、それぞれの日常を想像してしまう。

 ホラー映画監督の川松尚良さんの部屋には、コレクションの大量のホラー映画のVHSがかつてのレンタルビデオショップを再現して整然と並ぶ。他にも本が所狭しと積み上げられた編集者や、さまざまな布地のロールが大量に立てかけられたファッションデザイナーのアトリエ兼住居など、仕事とプライベートが混然となった部屋もある。

 中でもインパクトがあるのは、京都の一軒家に暮らす古書店主・緒方順一さんの部屋。なんと大量の本に囲まれた部屋の中でヤギと同居しているのだ。部屋でヤギを飼っている人は全国的にも珍しく数人だというが、本人の今後の目標はロバも飼うことだという。

 冒頭の庄司さんが4年生になった1年後、交通費節約のため郊外から引っ越した都心の築50年以上のアパートや、会社に近い渋谷の新築ワンルーム+ロフトのオシャレな空間を経て、品川のタワーマンションの最上階へとランクアップした26歳のCGデザイナー・岡田恵太さんらのビフォー・アフターも追跡。

 知人・友人の部屋を初めて訪ねた時のような気分でついつい見入ってしまう。

(玄光社 2300円+税)

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