著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「終の航路」カサンドラ・モンターグ著、新井ひろみ訳

公開日: 更新日:

 ヒロイン冒険譚である。わが子を父親に奪われた母親が、どこまでも追いかけていく話だ。なんだ、よくある話だ。そう思われるかもしれないが、けっしてよくある話ではない。なぜなら、時代が2130年、地球上のほとんどが水没した未来が舞台だからだ。

 ヒロインのマイラは7歳の娘パールを連れて小舟でずっと旅をしている。時折、陸の交易所に寄り、つり上げた魚と生活必需品を交換するささやかな毎日だ。国家はすでになく、武装集団が略奪と殺戮を繰り返している。海は危険でいっぱいだ。

 長女のロウは5歳のとき、夫のジェイコブに連れ去られ、それ以来、ロウを捜す旅を続けているが、昔グリーンランドと呼ばれていた北の島に捕らわれていることを知る。初潮を迎えれば武装集団の繁殖船に送り込まれてしまうので、それまでには奪還したい。ところが最果ての地に赴くにはマイラでは無理だ。航海術の素人だし、粗末な小舟だし、不可能である。では、どうするか。ここから、さまざまな登場人物が立ち現れ、マイラの冒険が始まっていく。

 長女が連れ去られたとき、お腹にいた次女パールはもう7歳。陸にあがるたびに小さな蛇を捕まえてきてペットにしている。この少女の孤独と可愛さが胸を打つ。旅の途中で合流するダニエルをはじめとする脇役も個性的で、物語に奥行きが生まれていることも見逃せない。一気読みの傑作だ。

(ハーパーコリンズ・ジャパン 1118円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  2. 2

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  3. 3

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  4. 4

    中居正広氏「性暴力認定」でも擁護するファンの倒錯…「アイドル依存」「推し活」の恐怖

  5. 5

    大河ドラマ「べらぼう」の制作現場に密着したNHK「100カメ」の舞台裏

  1. 6

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  2. 7

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  3. 8

    下半身醜聞ラッシュの最中に山下美夢有が「不可解な国内大会欠場」 …周囲ザワつく噂の真偽

  4. 9

    フジテレビ第三者委の調査報告会見で流れガラリ! 中居正広氏は今や「変態でヤバい奴」呼ばわり

  5. 10

    トランプ関税への無策に「本気の姿勢を見せろ!」高市早苗氏が石破政権に“啖呵”を切った裏事情