著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「深層地下4階」デヴィッド・コープ著 伊賀由宇介訳

公開日: 更新日:

 いやあ、面白い。読み始めたらやめられない面白さだ。

 1970年代に打ち上げられたロケットの破片が地球に落下してきたとき、打ち上げ時には存在しなかったものを宇宙から持ち帰ってくる。それは、火山の中でも深海でも外宇宙でも、どこでも生き延びられるしぶとい菌だ。生物に寄生して脳を支配し、自らの複製を作り上げるという唯一の目的に向かって増殖する菌だ。カマキリに寄生するハリガネムシみたいなものだと思えばいい。

 そのサンプルを地中深く埋めるのが本書のプロローグで、その12年後にパンドラの箱が開くところから真の物語が始まっていく。

 その真菌が、自らが生き延びやすい状況を選んで、徐々に、少しずつ、しかし途中からは素早く、侵食していくディテールが圧巻だ。不気味で、スリリングな、その様子が迫力満点に描かれるので目が離せない。

 問題はラストがややあっけないこと。残り30ページのところで、これ、どうやってもあと30ページでは終わらないだろ、と思ったが、終わっちゃうのである。急いで書いておくが、それでも十分に面白い。しかし、ここはもっとじっくり「敵」との戦いを描いて欲しかったと思う。ディテールがいいだけに残念である。

 そういうキズがあることは指摘しておかなければならないが、バイオホラー小説として一定の水準は保っている。今月の拾いものだ。

(ハーパーコリンズ・ジャパン 1091円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人原前監督が“愛弟子”阿部監督1年目Vに4日間も「ノーコメント」だった摩訶不思議

  2. 2

    巨人・阿部監督1年目V目前で唇かむ原前監督…自身は事実上クビで「おいしいとこ取り」された憤まん

  3. 3

    松本人志は勝訴でも「テレビ復帰は困難」と関係者が語るワケ…“シビアな金銭感覚”がアダに

  4. 4

    肺がん「ステージ4」歌手・山川豊さんが胸中吐露…「5年歌えれば、いや3年でもいい」

  5. 5

    貧打広島が今オフ異例のFA参戦へ…狙うは地元出身の安打製造機 歴史的失速でチーム内外から「補強して」

  1. 6

    紀子さま誕生日文書ににじむ長女・眞子さんとの距離…コロナ明けでも里帰りせず心配事は山積み

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    メジャー挑戦、残留、国内移籍…広島・森下、大瀬良、九里の去就問題は三者三様

  4. 9

    かつての大谷が思い描いた「投打の理想」 避けられないと悟った「永遠の課題」とは

  5. 10

    大谷が初めて明かしたメジャーへの思い「自分に年俸30億円、総額200億円の価値?ないでしょうね…」