江波戸哲夫(作家)

公開日: 更新日:

8月×日 最近「日本が貧乏になっている」というニュースをときどき目にするようになったが、GDPだってまだ世界第3位だし、それほど深刻に受け止めていなかった。

 事実を確かめてみようと加谷珪一著「貧乏国ニッポン」(幻冬舎 800円)を読み始めて愕然とした。のっけに「アメリカでは年収1400万円は低所得」だというニュースが紹介されているのだ。

 日本は平均年収が440万円ほどだから、米国では極貧ということになってしまう。

(何かの間違いだろう)と急いでページを繰ったが、次々と登場するデータはどれもニッポンは貧乏だと語っている。

 1つ例示しよう。「各国の住宅価格」(OECDデータより著者作成)は、2000年の日本を100とすると、18年の日本は85ほど。オーストラリアは335、カナダ325、英国250……、同じ先進国とは思えない大差がついている。

 なぜこんなに貧乏になってしまったのか? 著者はいろいろ分析しているが、「(日本には)400万人が社内失業して、生産性を低くしている」が分かりやすい。つまりろくに働かない社員が社内に滞留して無駄めしを食らっているのだ。

 それではなぜ日本にはろくに働かない社員が多いのか! 昔、銀行員だった頃耳にしていたことを思い出す。金融業界は大蔵省による“護送船団方式”で管理されていた。銀行が潰れると日本経済を脅かすから、競争をさせないようにしたのだ。よく考えると銀行だけではなく日本の多くの業界が激しい競争をしないように官庁に管理されていて、それは企業の人事にも及んだ。弱小企業もつぶれないように、無能社員も放り出さないように、という協調主義が、日本の組織文化なのだ。

 滝田洋一著「コロナクライシス」(日経BP 850円)を見ると、緊急時にも日本中がこの文化に捉われて後手後手に振舞っているのがよくわかる。先手必勝、トップ総取りのグローバル競争時代にはとうてい対応できない。

【連載】週間読書日記

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