「元徴用工 和解への道」内田雅敏著/ちくま新書

公開日: 更新日:

 日本と中国の国交回復騒ぎの中で、日本の企業は爪先立って商売の道に走りだした。少しゆっくりしていた三菱重工のトップ、牧田与一郎は「バスに乗り遅れますよ」と言われるや、「その時は飛行機で行くよ」と返したという逸話がある。とりわけ三菱は「国家と共に」という意識が強いが、国家の助けを借りて、あるいは国家の陰に隠れて儲けながら、いざ補償をと言われると、また、国家を表に出して逃げようとする。いま、問題になっている韓国人徴用工問題は、企業の自主性が問われている問題でもある。

 中国人強制連行、強制労働問題で被害者側の弁護士として鹿島と西松建設、そして三菱マテリアルの和解に関わった内田は、作家の高村薫の次のような警告を引く。

「今回の徴用工判決について日本側が鬼の首を取ったように国際法違反だの、断固たる措置だのと口を揃えていることに大きな違和感を覚える」

 高村は「戦前の植民地支配を振り返れば、日本は人権が重視されるいまの時代にふさわしい和解の道を探る責務を負っている」とし、「かつて鹿島建設や西松建設にできたことが新日鉄にできないわけでもあるまい」と続けている。

 鹿島の和解が2000年、西松のそれが09年だが、16年の三菱マテリアルは「前二者をはるかに超えた内容のもの」となった。

 まず、「過ちて改めざる、是を過ちという」と踏み込んだこと。下請け先も対象としたこと、和解金の額がこれまでの和解金額を大幅に超えたものだったこと。和解金の内訳(使途)が明確に示されたことなどのためである。

 ドイツでは、1988年にダイムラー・ベンツ社が、戦時中に同社で強制労働させられたユダヤ人に2000万マルク(当時のレートで14億円)を支払ったし、フォルクスワーゲン社も91年に「ユダヤ人会議」などに1200万マルクの補償金を支払うことを決定した。企業が独自にこうしたことをやっているのである。韓国で徴用工問題の解決に向けて活動する弁護士の崔鳳泰がインタビューに答えて、こう言っているという。

「元徴用工訴訟の原告は、被告の日本企業が謝罪し自発的に被害者を救済することを望んでいます。差し押さえた日本企業の資産を売却する方法は半分の勝利でしかあり得ません」 ★★★(選者・佐高信)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 2

    野呂佳代が出るドラマに《ハズレなし》?「エンジェルフライト」古沢良太脚本は“家康”より“アネゴ”がハマる

  3. 3

    岡田有希子さん衝撃の死から38年…所属事務所社長が語っていた「日記風ノートに刻まれた真相」

  4. 4

    「アンメット」のせいで医療ドラマを見る目が厳しい? 二宮和也「ブラックペアン2」も《期待外れ》の声が…

  5. 5

    ロッテ佐々木朗希にまさかの「重症説」…抹消から1カ月音沙汰ナシで飛び交うさまざまな声

  1. 6

    【特別対談】南野陽子×松尾潔(3)亡き岡田有希子との思い出、「秋からも、そばにいて」制作秘話

  2. 7

    「鬼」と化しも憎まれない 村井美樹の生真面目なひたむきさ

  3. 8

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  4. 9

    竹内涼真の“元カノ”が本格復帰 2人をつなぐ大物Pの存在が

  5. 10

    松本若菜「西園寺さん」既視感満載でも好評なワケ “フジ月9”目黒蓮と松村北斗《旧ジャニがパパ役》対決の行方