天性の愛嬌とはこの人のためにあるような言葉
「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」
小学生のころはヒーローの二枚目に憧れたものだが、中学になると二枚目半のほうが一枚上手だと気づく。そのきっかけがジャン=ポール・ベルモンドだった。アラン・ドロンと並ぶ仏映画界きってのスター。彼を知らない世代も顔を見れば寺沢武一著「コブラ」のモデルとわかるだろう。
その彼の1960年代から80年代にかけての映画が「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」として今月末、封切られる。
ラインアップは、フィリップ・ド・ブロカ監督「大盗賊」以下、「オー!」「大頭脳」「恐怖に襲われた街」「危険を買う男」「ムッシュとマドモアゼル」「警部」「プロフェッショナル」。共通点はDVDまたはブルーレイが国内未発売であることだそうだが、個人的にはなんといっても「オー!」(68年)がうれしい。
確かこの映画の公開と前後して早川のポケミスでジョゼ・ジョバンニの原作が邦訳され、暗黒街で成り上がってゆく青二才の姿を心に刻んだ。その後、中学生の分際で家を抜け出してオールナイトの映画館に出かけたのだった。当時、筆者の中学は丸刈りでしたからね、よくまあ補導されなかったものである。
ベルモンドのいいところはその明るさと気取らなさ。天性の愛嬌というのはこの人のためにあるような言葉で、現に人柄もそうらしい。
山田宏一著「山田宏一映画インタビュー集 映画はこうしてつくられる」(草思社 3600円+税)は、ベテラン映画評論家によるフランス映画人へのインタビュー集。この中にベルモンドとの対話も収録されている。それを読むと、ゴダールの「勝手にしやがれ」の裏話から、彼がいかに意識の高い映画俳優だったかまでよくわかる。ちなみに山田氏によるとベルモンドは「映画のなかのイメージよりもいっそう明朗で、親しみやすくて、気のおけない、じつに感じのいいスター」だったという。 <生井英考>