小路幸也(作家)
6月×日 そもそもが酒を飲まないし出不精な人間なのでここ10年以上は〈東京のホテルにいるか自宅にいるかどっちか〉という暮らしになっていた。なので、コロナ禍の中でもさほど暮らしに変化はないが、もう1年以上友人たち、息子たちとも母親とも顔を合わせていない。住んでいる市のワクチン接種の状況はさほど進んではおらず、還暦を迎えたばかりの中途半端な初老に順番が回ってくるのはまだ先みたいだ。
ジョゼフ・グッドリッチ編「エラリー・クイーン創作の秘密 往復書簡1947―1950年」(飯城勇三訳 国書刊行会 3520円)を買った。
もうタイトルから内容が想像がつくだろうけど清々しいほどマニアックな本で、エラリー・クイーンを全作読み込んでいないとピクリともおもしろくない本だ。作風からはあまり信じてもらえないだろうけどエラリー・クイーンは心の師と仰ぐ作家だ。江戸川乱歩で産湯をつかいエラリー・クイーンで育った由緒正しき正統派のミステリ好きだ。それが作品にも出てくれればいいし、実は自分の理想としてはミステリ作家と呼ばれたいんだけどなかなかどうして人生は難しい。
6月×日 オノ・ナツメ著「BADON」(ビッグガンガンコミックス 660円)最新刊の4巻が出たのでまた1巻から読み直したりする。背景が複雑なのだが、簡単に言うとさまざまな経歴を持つ4人の前科者の中年男たちが都会で煙草屋を開いて人生をやり直すという物語なのだが、この人の描く物語のマンガの魅力は一言では語れない。とにかく読んでくれと言うしかない。
いや、観てくれ、と言った方がいいか。このマンガのコマ割りの通りに映画を撮ったとしてそれだけで魅力的な1本が仕上がるはずだ。それぐらい、構図もテンポも人物像も映像的だ。アニメ化された作品も持つ作者だが、ぜひハリウッドで実写化してほしい、が、超弩級のエンタメではなくどちらかといえば渋い作風なので無理だろうけど。