50年前の伝説の音楽フェスのドキュメンタリー
「サマー・オブ・ソウル」
五輪のから騒ぎが終わって戻ってきた長く暑い夏。「ロング・ホット・サマー」といえば現代史では1967年夏、アトランタとボストンから全米に飛び火した人種蜂起のことだ。さらには64年の公民権法から「ワッツ暴動」を経て60年代末まで続いた暑い緊張の季節も指す。
同時代にはベトナム反戦の高揚とサイケファッションの流行があり、音楽シーンはフォークからロックへ。その頂点が69年の伝説のウッドストック・フェスだが、同時期にニューヨークで毎週日曜に開かれた連続フェスの映像が最近発掘されてドキュメンタリーになった。それが今月末封切り予定の「サマー・オブ・ソウル」だ。
フィフス・ディメンションが「アクエリアス」を歌い、「白人の音楽をやる黒人といわれて悔しかった。だからこれに出たのは大事だったのよ」。グラディス・ナイトも「音楽を超えた変革が起ころうとしてた」と振り返る。
スライ&ザ・ファミリー・ストーンに白人メンバーがいることに黒人聴衆は面食らったが、演奏が始まるとサウンドとアフリカ民族衣装ダシーキにみな魅了され、街にはアフロモードがあふれる。そして圧巻がニーナ・シモン。
迫害と屈辱に負けない誇りと太陽のようなパワーが圧巻だが、まさに同じ読後感をもたらすのが本田創造著「アメリカ黒人の歴史 新版」(岩波書店 946円)である。
同書の初版は64年。まさに「長く暑い夏」の年に出版された少壮気鋭の歴史家の著書は増補を重ねて長く読み継がれ、著者の薫陶を受けた日本のアメリカ人種関係史は本国に見劣りしない水準を保ってきた。単なる弱者びいきとは違う反骨とより普遍的な「構造的差別」を見抜く慧眼。「あのフェスはコンクリートの床に咲いた一輪の花だった」という映画の呟きが、夏の宵にせつなく胸に響く。 <生井英考>