青山美智子(作家)

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10月×日 整体通いを始めて1ヵ月になる。屈伸をすると膝が痛むので駆け込んだのが最初だった。診察の結果、「足の裏のアーチが高い」「股関節が固い」「筋肉が正しく使われていない」などなど、ダメ出しの数々。ピンポイントで膝が悪いというより、問題は全体の固さと歪みにあった。パソコンに向かうとつい座りっぱなしで同じ体勢を続けてしまう、長年の蓄積が祟ったらしい。通院とストレッチで関節調整の日々である。

 そんな中、花房観音さんの「果ての海」(新潮社 1925円)を読んだ。拙著「ただいま神様当番」(宝島社 1628円)に出てくる踊り子「愛和ネネ」のモデルとなった相田樹音さんが本作でも登場人物のモデルになっていると聞き、発売前から楽しみにしていたのだ。

 物語は、主人公圭子が死体を見つめるシーンから始まる。彼女と内縁関係にあった男である。

「女の力でも、殺せる」。なんと衝撃的な一文。圭子は別の男の手引きで整形手術をする。そして新しい顔と名前を手に入れ、福井の温泉旅館で別人として生きるのだ。私は「肉体改造」に勤しんでいるところだが、圭子は「顔改造」をして逃亡である。

 圭子は芦原で、樹音さんをモデルとした雪レイラというストリッパーと出会う。実在する「あわらミュージック劇場」には私もちょうど1年前に樹音さんのステージを観るために訪れており、屋台村の美味しい料理や東尋坊の景色も併せてリアルに思い浮かべながら読みふけった。あわらミュージック劇場の広さ、ダイナミックな演出は目を見張る素晴らしさだ。本作を読みながら楽しかった記憶が蘇ってきて、また行きたくなった。作中でレイラが「最近は女性客も多くて健全」と言っている通り、ストリップはどんな性別でも楽しめる文化だ。

 過去も家族も捨て美しい顔を自分のものにした圭子。女としての業、喜び……幸福とは何だろう。私が幸福でいるためにまずできるのは、整った関節を自分のものにすることである。さあ、今日もストレッチだ。

【連載】週間読書日記

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