異常な設定の裏を推理 文庫で読み解く海外ミステリー本特集

公開日: 更新日:

「レイン・ドッグズ」エイドリアン・マッキンティ著 武藤陽生訳

 ミステリーは異常な状況から始まることが多い。なぜ、そんな状況を設定することが必要なのか、推理しながら読み解いていくのがミステリーの醍醐味なのだ。



 北アイルランドの古城の中庭で女性の死体が発見された。管理人は前日の午後6時に城内に誰も残っていないのを確認して正門を閉めた。外壁は高さ18メートルで乗り越えるのは難しく、どうやって入ったのか分からない。女性は転落死とみられ、ブランド物の高価なパンプスを履いていたが、ショーン・ダフィ警部補は、右足に左の靴を履いているのに不審を抱いた。

 臭いをたどっていた警察犬が地下室で吠えてくんくん鳴いた。女性は前夜、この地下牢に潜んでいたのか。所持していた社員証で、彼女は「フィナンシャル・タイムズ」の記者、リリー・エマ・ビグローであることが判明したが、ダフィは過日、窃盗事件の取材に来た女性だと気づいた。やがて、警察高官が爆殺される事件が起きる。

 ショーン・ダフィ警部補が活躍する警察小説。エドガー賞受賞。

(早川書店 1672円)

「冤罪法廷(上・下)」ジョン・グリシャム著 白石朗訳

 38歳の白人、デューク・ラッセルは、強姦殺人の罪で1時間45分後に死刑を執行されることになっていた。裁判の陪審員の半分は、片田舎の貧乏白人の町に住んでいるろくに文字も読めないような無学な人たちで、いんちき証人にだまされたのだ。冤罪なのに恩赦は却下された。

 看守が最後の食事をカートに載せて運んできた。ステーキとフライドポテトとかなり薄く切ったチョコレートケーキを見て、「ビールがないぞ」とデュークは言った。

 その時、弁護士のカレン・ポストのポケットの中で携帯電話が震えた。「ようやく来たぞ」。発信者は旧知の上訴裁判所書記官で、上司が執行一時停止の命令書にサインしたと伝えた。

「ステーキを食べ終わるまでに、あと何分かかる?」とポストは聞いた。「5分」とデュークは答えた。

 実話をもとにした法廷サスペンス。

(新潮社 各781円)

「欺きの仮面」サンドラ・ブラウン著 林啓恵訳

 FBI捜査官のマイクは同僚のドレックスに言った、「やつを見つけた」と。裕福な女性ばかり狙う連続殺人犯だ。

 その容疑者の男は結婚しているが、連続殺人犯も一度、金持ちの女性と結婚していたことがある。ドレックスは容疑者のジャスパー・フォードの隣の家に引っ越した。荷物を運んでいる時、ジャスパーが「手伝えることはないかな?」と声をかけてきた。妻が悪天候のため空港に足止めされていると言い、ジャスパーはドレックスを夕食に招待した。

 申し分のないステーキを食べながら、ドレックスは、留守だという彼の妻は既に殺されているのではないかと案じた。

 翌日、港に停泊しているジャスパーのヨットを訪れると、白い服を着たジャスパーの妻、タリアが現れた。ドレックスの胃が、いかりのようにどすんと落ちた。まずい。

 19歳の時、母を殺された捜査官が連続殺人犯を追い詰める。

(集英社 1650円)

「サナトリウム」サラ・ピアース著 岡本由香子訳

 イギリスの警察を休職中のエリン・ワーナーは、弟アイザックの婚約パーティーに出席するため、恋人のウィルとアルプスの山岳リゾートにある豪華ホテル「ル・ソメ」にやってきた。かつてはサナトリウムだった建物を改装したホテルだが、地元では建設工事反対運動が起きている。

 しかもホテルの主任設計士のダニエル・ルメートルは、ホテルの着工目前に失踪したといういわくつきのホテルだ。

 エリンはこのホテルのDNAに刻まれた何かに反応して気分が悪くなった。アイザックの婚約者のロールは「ル・ソメ」の副支配人を務めているが、なぜか姿が見えない。やがてプールの底に沈むロールの死体が発見される。彼女の顔にはゴムのチューブ付きのガスマスクのようなものがはめられていた。

 サナトリウムで起きた事件に休職中の警官が立ち向かう。

(KADOKAWA 1342円)

「犠牲者の犠牲者」ボー・スヴェーンストレム著 富山クラーソン陽子訳

 ストックホルムの納屋で、はりつけにされた男が発見された。全裸で性器は切り取られ、残虐な拷問を受けていた。死んでいると思われたのに、男が突然首をもたげ、叫び声を上げた。生きていたのだ。

 普通なら出血多量で死亡していたはずだが、犯人は熱したナイフを使って出血を抑え、男を生かしていた。

 男の名はマルコ・ホルスト。恋人を刃物でめった刺しにするなどの犯罪を重ねてきた凶悪な男で、過去のレイプ被害者の家族が報復したとも考えられた。

 後日、控訴裁判所にホルストの切り取られた性器が入った白い封筒が届く。カール・エードソン警部は23年前にホルストが撲殺しかけた男のアパートを訪ね、バスルームで女性の死体に遭遇する。頭が浴槽の縁にのっていた。

 被害者がみな犯罪者という設定の北欧ミステリー。

(ハーパーコリンズ・ジャパン 1430円)

【連載】ザッツエンターテインメント

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  2. 2

    大谷の今季投手復帰に暗雲か…ドジャース指揮官が本音ポロリ「我々は彼がDHしかできなくてもいい球団」

  3. 3

    フジテレビ第三者委の調査報告会見で流れガラリ! 中居正広氏は今や「変態でヤバい奴」呼ばわり

  4. 4

    フジ反町理氏ハラスメントが永田町に飛び火!取締役退任も政治家の事務所回るツラの皮と魂胆

  5. 5

    下半身醜聞ラッシュの最中に山下美夢有が「不可解な国内大会欠場」 …周囲ザワつく噂の真偽

  1. 6

    “下半身醜聞”川﨑春花の「復帰戦」にスポンサーはノーサンキュー? 開幕からナゾの4大会連続欠場

  2. 7

    フジテレビ「中居正広氏に巨額賠償請求」あるか? 「守秘義務解除拒否」でウソ露呈

  3. 8

    今田美桜「あんぱん」に潜む危険な兆候…「花咲舞が黙ってない」の苦い教訓は生かされるか?

  4. 9

    Kōki,『女神降臨』大苦戦も“演技”は好評! 静香ママの戦略ミスは「女優でデビューさせなかった」こと

  5. 10

    高嶋ちさ子「暗号資産広告塔」報道ではがれ始めた”セレブ2世タレント”のメッキ