「見習医 ワトソンの追究」鏑木蓮著
美容研究家の五十嵐夏帆32歳が、母親との電話中に何者かによって腹部を刺され、三品病院に救急搬送された。創傷は脾臓にまで達していたが懸命な治療により、脾臓を温存したまま一命をとりとめる。ところが術後、脳幹の損傷がみられ、夏帆は死亡する。
夏帆のオペに立ち会った内科医・入家陽太郎は、院長の命を受け、死因の特定及び、医療ミスがなかったかを調べることに。一方、事件を担当する大阪府警の刑事・成山有佳子が夏帆の仕事場に入ると、真菰(まこも)が入っていた水槽が割れ、床が水浸しになっていた。やがて陽太郎は有佳子の助けを得て、自宅と仕事場で病原菌の検査を開始する。
江戸川乱歩賞作家である著者の最新作は、医療と警察を融合させた医療ミステリー。
付きまといをしていた夏帆の元夫、代理店に勤める恋人、事務所の弁護士、脅迫状の送り主ら次々に容疑者が浮かんでは消えていく。警察小説の様相は次第に医療の領域へと舞台を移してゆくが、なかでも病原菌特定に至る推察は大きな読みどころだ。
自然に生息する菌が突然、牙をむく恐ろしさが、このご時世、リアルに迫ってくる。 (講談社 1980円)