「ROAD TO AMERICA」大久保喜市著
「ROAD TO AMERICA」大久保喜市著
1970年代、革ジャンとリーゼントで一世を風靡したロックンロールバンド「クールス」は、一時活動を休止していたが、90年にオリジナルメンバーが再結集して、活動を再開。「オリジナル・クールス'90」として、ロサンゼルスでレコーディングしたアルバムと東京でのライブアルバムを発表した。
再結集を呼びかけ、アルバムのプロデューサーを務めたのが、オリジナルメンバーでもあった著者だ。本書は、「オリジナル・クールス'90」のロサンゼルスでのレコーディング後に制作されたミュージックビデオのメーキング写真を編んだフォトエッセー集。
「すべての始まりはバイクだった」と著者は言う。
15歳で映画「イージー・ライダー」に衝撃を受け、ホンダCB250を買って、免許を取る前から乗り回すほどバイクが好きだった著者は、原宿の喫茶店「レオン」の前にいつも止まっている1台のバイクが気になっていた。
そのチョッパー風に改造されたカワサキW1の持ち主こそ、当時、魔訶男(マカオ)というバイクチームのリーダー、舘ひろしだった。
魔訶男はその後、クールスと名乗るようになり、先輩格のバンド「キャロル」の解散を受け、バンド活動に乗り出す。しかし、ベースを弾けるメンバーがいなかった。ベースが弾けた著者は、レオンでメンバーのジェームスに誘われ、白いビュイックのオープンカーでスタジオに連れていかれ、その日からクールスのメンバーとなった。
75年にデビューしたクールスは、メンバーの脱退などを経て、レコーディングとコンサートの日々を繰り返すが、6年後に著者も脱退。
脱退後、著者はメンバーには何も言わずに日本を出てアメリカで暮らしていた。そして8年後、活動を休止していたメンバーを1人ずつ訪ね、関係を修復し、新しいアルバムを出すために動き出す。
本書の前半は、当時のレオンや、著者が暮らした80年代のニューヨークやロサンゼルスの写真とともに、クールス誕生の物語から再結成までの経緯を自らの人生と重ね合わせながらつづる。
完成したアルバム「オリジナル・クールス'90」からシングルカットした「ロック・ザ・ワールド」のミュージックビデオの撮影はロサンゼルス近郊のモハーヴェ砂漠で行われた。
砂漠の真ん中を突っ切ってどこまでも続く一本道を、革ジャンにリーゼントで決めたメンバーがハーレーにまたがって走る(表紙)。
その写真は、バイクチームをバックボーンにして生まれ、ロックバンドとして世に出たクールスの原点を映し出している。
ほかにも、ハリウッド・ブルーバードやレコーディング、スタジオでの演奏、そして東京に場所を移してのジャケット撮影と、アルバム完成までバンドの軌跡を写真でたどる。
アルバムを聞きながらページを開けば、気分はたちまち70年代にトリップのファン必携本。
(東京キララ社 2200円)