「特攻服少女と1825日」比嘉健二著/小学館
「特攻服少女と1825日」比嘉健二著/小学館
1989年に創刊され、1998年休刊の雑誌「ティーンズロード」。女版ヤンキーの「レディース」を題材とした雑誌の創刊編集長による、小学館ノンフィクション大賞受賞作だ。全国のレディースを取材し表紙や巻頭グラビアに登場させるなど、地方のヤンキーから絶大なる人気を誇った同誌をめぐる状況を描く。各地でカリスマ的存在だった「すえこ」「じゅんこ」「のぶこ」「かおり」らが次々と登場する。
すえこは「駅番」をすることで出世をしたと述べるが、彼女は自分たちのチーム以外の女がヤンキーっぽいスタイルでいきがっていたら取り締まるという役割を担った。
〈「見かけたらボコボコにしましたよ、この町で私たち以外の不良は認めない。髪を黒く染めて真面目になるか、どうしても不良やりたかったらうちのチームに入るか、って脅かしましたね。ちなみに駅番は交代制でなく自発的にやるものです」〉
こうした功績が認められ、すえこは埼玉県東松山市の「紫優嬢」の4代目総長となったのだ。今ではすえこは書籍執筆や映画監督をしたり、少年院出所者支援NPOを立ち上げ講演活動も行っている。
ここまで見ると、本書はいかにレディースが大暴れをするか、そして現在何をしているかのドキュメンタリー作品と思うかもしれない。半グレ集団・関東連合の暴れっぷりを描いた「いびつな絆 関東連合の真実」(工藤明男著)的なものだ。
しかし、実質的には比嘉健二という編集者による「ティーンズロード奮闘記」的内容で、いかにして雑誌を立ち上げ、低調なスタートを切ってから躍進をし、いかなるコーナーが人気だったかの振り返りが主軸となっている。3人の総長が表紙に登場する号では、3人が同じスタジオで撮影したが、スタッフはケンカの開始を恐れていた。
〈おのおのがスタジオの隅に自然と陣取り、お互いに相手のことを見ようとしない“沈黙の威嚇”がすでに始まっていた〉
こうした記述はあるものの、基本線としては一冊の雑誌がいかなる作られ方をし、社内でどのような扱いを受けたか、部下やカメラマンとのやりとりなどを描いている。ヒット企画や人気の連載も紹介されている。
「雑誌黄金期」とも呼ばれた1990年代を舞台にしているだけに取材の仕方もぜいたくだ。編集部所有車があるなんて、2001年に編集者になった自分には信じられない。同業種の人間としてはこの部分を楽しめるが、ヤンキーによる血まみれの抗争を期待する人は若干肩透かしをくらうかもしれない。 ★★(選者・中川淳一郎)