「いきものがたり」植田信子著
「いきものがたり」植田信子著
「ちょい悪」風の猫たちの表紙が印象的な本書は、「生きているものすべてが愛おしい」という著者が、さまざまな生きものたちの生の一瞬をとらえた写真集。
食事中、おこぼれを狙って足元にまとわりつくハトを後ろ足で追い払うゾウ、授乳中におっぱいを飲む幼子になにか話しかけているように見えるマンドリルの母親、こちらにお尻を向けて整然と並んだ仲間の間に入り込み一頭だけこちらに顔を向けるシカ、そして何か気に食わないことでもあったのか、それともメスをめぐる攻防かボクシングのように激しく殴り合うカンガルーなど。
撮影場所の説明がないので正確には分からないが、おそらく作品の中の多くは動物園の動物たちを被写体にしていると思われる。
しかし、本書に登場する動物たちは、私たちが動物園の動物に抱くイメージとは異なり、なんと生き生きとしていることか。
あたり一面に水滴が輝く中、3羽のフラミンゴがその長い首を使って作り出した現代アートのような造形、集まり頬寄せ合ってなにやら密談をしているかのようなワオキツネザルやウサギ、老夫婦の日なたぼっこを連想させる2頭のヤギ。
これらのショットを撮影するために、いつか訪れるであろうその一瞬を見逃さないよう、ケージの前で何時間も何時間も粘り強くシャッターチャンスを待ち続けたであろうことが容易に想像できる。
登場するのは、陸上の生きものたちだけではない。
ラッコや巨大なエイ、ジュゴンなどの水中生物もいる。
表紙の写真を見てもお分かりのように、著者の作品は動物たちのかわいらしさや愛らしさを切り取ることを狙ってはない。
サル山のボスなのだろうか、ニホンザルは何やら険しい顔で不機嫌そうに横たわっている。
ほかにも、シマウマを真上からとらえ、その美しい背中の模様を際立たせた作品や、エサの投入口から顔をのぞかせるライオンなど、アングルによって動物たちの意外な一面を教えてくれる作品もある。
中には、子ゾウなのだろうか、プールの中でひっくり返っているゾウの写真もある。ゾウの足の裏が、あんなふうに丸太の切り口のようになっていることを初めて知った。
日常の遊び場なのだろうか、雪が積もった物置小屋らしき建物の屋根の上を何のためらいもなく平然と歩くラブラドール、自分で捕まえたのか、大きな魚をくわえて消波ブロックを駆けあがる白猫の後ろ姿など。お馴染みの犬や猫も、著者のレンズを通すといつもとは違って見える。
「生きものたちの発することばを聞きたい」と願いながら撮影に取り組んできたという著者。その作品からは、確かに彼らの発する言葉なき言葉が聞こえてきそうだ。
(PURPLE 2750円)