公開日: 更新日:

「蔦屋重三郎」増田晶文著

 庶民から「蔦重」の愛称で呼ばれた蔦屋重三郎(1750~97年)は、裸一貫から江戸のメディア王に上り詰めた出版人。パブリッシャーとエディターを兼務して、ベストセラーを連発。その辣腕ぶりを支えたのはプランナーとしての才知であり、戯作者や絵師の可能性を引き出すディレクション能力だった--と、著者いわく、蔦重ほど「カタカナ業種」がぴったりくる江戸っ子は珍しいという。そんな希代の人物の発想と手法、功績を振り返る。

 生まれはあの吉原。父母の離縁で、8歳から引き手茶屋を営む叔父に育てられた彼は、長じて吉原大門近くの親戚の軒先を間借りして本屋を開く。

 そして24歳で、吉原のタウンガイド「吉原細見」を皮切りに、いよいよ出版業にも関わる。

 当時、老舗が独占販売していた吉原細見に、「細見改」という立場で参加。そのデザインを刷新し、遊郭や遊女のデータを満載し注目を集めた。さらに遊女のファッション性を喧伝し、女性客の目も吉原に向かわせ、吉原は情報発信基地として認知されるようになる。

 一方で恋川春町らを取り込み、滑稽や諧謔、洒落をちりばめた「黄表紙」を出版。政治批判や風刺が効いた蔦重の営む本屋「耕書堂」の刊行物は飛ぶように売れる。

 松平定信が老中に就任して綱紀粛正の世になると、蔦重は反骨ぶりを発揮して、黄表紙で寛政の改革を徹底的にあげつらい、倹約や文武奨励の施策を徹底的に笑いのめす。それがお上の怒りを買い、弾圧されるが、それでもめげずに、喜多川歌麿や東洲斎写楽の美人画や役者絵でブームを起こした。

 その48年の怒涛の生涯には改めて感服。豊富な文献をもとに発想から手法、業績までを平易な文章で記した蔦重入門書だ。

(新潮社 1815円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    中居正広「申し訳ございません」ついに謝罪もSMAP再結成は雲散霧消…元リーダーが“終止符”を打つ皮肉

  2. 2

    中居正広“9000万円トラブル”で番組窮地…「今でも許せない」告発女性が反撃の狼煙

  3. 3

    中居正広“9000万円女性トラブル”報道で再注目 女子アナや芸人が暴露…テレビ局の“悪しき風習”

  4. 4

    中居正広「女性トラブル報道」に「沈黙」を続けるTVメディア…旧ジャニーズ事務所の性加害問題とソックリ

  5. 5

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  1. 6

    中居正広「テレビから消える日」いよいよ現実味…女性トラブル示談金9000万円報道いまだ波紋

  2. 7

    《親会社変わってくれ》楽天OBが実名で痛烈批判! 創設20年で監督6人が1年でクビの「負の連鎖」

  3. 8

    中居正広“9000万円トラブル報道”でTOKIO再結成に高まる期待 SMAP完全消滅の反動で…

  4. 9

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  5. 10

    藤井風“エグい”と話題のNHK紅白「NY生中継」の驚きの金額 5分30秒の放送に受信料大盤振る舞い