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中川右介

1960年東京生まれ、早大第二文学部卒業。出版社「アルファベータ」代表取締役編集長を経て、歴史に新しい光をあてる独自の執筆スタイルでクラシック音楽、歌舞伎、映画など幅広い分野で執筆活動を行っている。近著は「月9 101のラブストーリー」(幻冬舎新書)、「SMAPと平成」(朝日新書)など。

森繁久彌が“同じ心で歌っている”と激賞した「知床旅情」

公開日: 更新日:

 加藤登紀子が「知床旅情」という歌を初めて聴いたのは、後に夫となる藤本敏夫と最初に会った1968年3月のある日だった。

<初デイトだったその日、相当酔っ払ってもいたが、私の住んでいるマンションの屋上で夜空を見ながら、彼が朗々とこの歌を歌ったのだった。私は、ちょっと打ちのめされた! 歌手なのに、私はこんな風に気持ちよく人に歌を聞かせたことがない。>(自伝「運命の歌のジグソーパズル」から)

 レコードデビューをしている歌手の前で朗々と歌う学生運動のリーダーと、その歌に素直に打ちのめされる歌手――脚色はあるのかもしれないが、日本音楽史の名場面のひとつだ。加藤にとって、一目惚れならぬ「一耳惚れ」だったのかもしれない。加藤登紀子は藤本の歌に感じた「何か」を求めて自らの音楽を模索するのだ。

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